EU離脱する英国が拠出金要求に強硬姿勢

24.05.2017

Photo: gdforum

 

 欧州連合(EU)は英国の離脱に伴いEUに支払う拠出金に合意するまで、離脱後の通商交渉の開始に応じない方針を示した。しかし、英政府はその額や合法性について疑問の声をあげ、拠出金の要求を取り下げなければ、EUとの通商交渉に応じないと強便姿勢をみせている。

 

高くつくEU離脱の代償

 離脱に伴いEUが英国に要求した当初の拠出金の額は、400~600億ユーロであった。その後、この金額はユンケル欧州委員長の要望で1,000億ユーロにまで膨れ上がり、英国からの反撃を招いた。背景にあるのが、EU加盟国の一部の国の要望と他のEU参加国への見せしめである。EU離脱には巨額な負担が伴うことを示すことで、EU離脱への動きを阻止することであった。

 

 拠出金の増加には、ドイツは欧州委員会の運営費負担、フランスとポーランドが業助成金の負担がそれぞれ上乗された分が含まれている。英国公認会計士協会は、拠出金を65億ユーロと計算していたことから、当初提示された金額から英政府は不満をもち、拠出金を支払う義務はないと反論した。

 

EU加盟国は補填に消極的

 特に問題となっているのが、ドイツとフランス、他の加盟国も離脱後の英国の分のEU予算拠出の負担を拒否していること。さらに、EU予算で進められている複数年政策(大型プロジェクト)(注1)の縮小を望まないことである。英国が巨額な拠出金を要求されている理由である。

 

(注1EUの科学技術予算は日本同様、複数年度にわたる中期予算形式となる。1984年度からFramework Programme (FP)という4年計画を積み重ねて6期をこなして来た。予算総額は加盟国からの研究者数増加に対応してゆるやかな増加傾向にある。2007年度からのFP7では 年度が7年に増え、さらに2014年度からの7年計画Horizon2020では、予算の組み替えもあり見かけ上の総額ではFP7比で50%増と長期的な 予算増額がみてとれる。

 

 このことは2021年度までの予算が確保できなければHorizon2020が宙に浮くことになり、CERNや現在ポーランドに建設中のレーザー施設ELIの将来に暗雲が立ち込める。また被雇用者1,000人あたりの研究者数も2000年の5.2人から2012年の7.3人と予算に対応した増加の傾向がみられる。つまりFP7予算(505.21億ユーロ)の分配は研究施設や雇用に対して絶対に確保しなければならない聖域となる。したがって各国の供出金の総額が少なくとも2021年までは変化があってはならない、というのがEUの基本的立場なのである。

 

 ホスト国がフランスでEUを舞台にした核融合の大型国際プロジェクトITERでは参加国は10年間脱退が許されない。そのため米国は当初参加を辞退したが、最近加入した経緯がある。ちなみに当初から主要なスポンサーとなった日本は、毎年150億円規模の資金をつぎ込むことが「義務」となっている。

 

 

懸念されるEUへのブーメラン効果

 一方的に通商交渉の開始の条件を英国に押し付けたが、優位な立場で交渉力を持つのはEUではなく、英国である。拠出金を支払わない、通商交渉に応じないとなったら、大きな被害(市場アクセス、EU商品への関税、漁業権の無効、EU市民の雇用損失など)を受けるのは英国ではなく、EUである。

 

 制裁的な意味合いで英国に拠出金保障を求める行為が、何倍にも増幅されて戻ってくる「ブーメラン効果」が懸念される。