EVだけに未来を託せない理由

30.07.2017

Photo: automoblog

 

 テスラEVの目覚しい躍進は欧州の大手自動車メーカーの本格参入を促すきっかけとなった。一方でデイーゼルゲートを契機にドイツ、フランス、英国では2030-2040年を目処に、法的規制で内燃機関(ICE)の廃止を目指す動きが活発化した。後者はやがてEU全体の流れとなるとみられ、磐石を誇ってきたICE社会にゲームチェンジャーが登場したかのような印象さえある。しかし一方ではEVに関しては賛否両論が渦巻き、EVの未来に懐疑的な見方が消えたわけではない。

 

テスラ社の株価が突然落ち込む

 時価総額がGMを超えたテスラ社だがイーロン・マスク自身も認めているように、過大な評価は長くは続かなかった。2017年3月に50日移動平均株価が下方修正され、ピーク時に比べて15%減少した。原因は同社が満を辞して7月末から引き渡しを行う量産車モデル3の利益率が低いとして、ゴールドマンサックスのアナリスト、デビッド・タンバリーノ氏が株価の誇大な評価を指摘したためとされる。

 

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 しかしEVの将来性に対する懸念は、テスラ社のみの問題ではないようだ。EVの普及は石油価格に脅威ではないとする石油産業アナリスト、デビッド・イェーガー氏の分析がある。

 

ICE車の脅威とならないEV

 EVがICE車を置き換えるのは時間の問題としてEVが未来の象徴と伝えるメデイアが多い。しかしイェーガー氏によればEVの普及で石油価格低下に結びつくものの、石油産業が衰退し石油価格が暴落するわけではない、すなわちEVの台頭は脅威ではないという。その理由は以下の分析による。

 

 投資調査会社(Morningstar)の予測ではEV販売は2025年までの販売車数の10%を占める。公的機関(EIA)の予測ではEV総数は2025年までに140万台となる。モルガン・スタンリーは2050年までに販売されるEVは10億台と予測し、欧州ではEV率が70%になるとしている。ブルームバーグは低価格化が進みEVへの転換は車革命と言える加速度で進行すると予測する。これらはEVの将来が明るいとする予測である。しかし数値を吟味すると脅威的なものでないことがわかる。

 

EVがICE車を置き換えられない

 米国の2016年度の自動車販売台数は1,840万台、2015年度の登録数は一般車が11億台、トラックが3.77億台で2025年度の予測はそれぞれ15億台、5.07億台、2040年度は20億台、7.9億台となる。EVの販売台数の伸びは遅くブルームバーグ予測では2050年度でも25%にしかならない。このEVによる石油販売量の低下は8%となる。

 

 また一般のEVが維持コストでメリットがあったとしても、輸送用のトラックでは大出力モーターが必要となり採算性は期待できない。さらに航空機燃料は(一部バイオマス燃料が使われているが)これまた純度の高いジェット燃料を(採算性の観点から)継続使用せざるを得ない。米国の例をとると原油の86%が輸送用で使われており、その内訳はガソリン、デイーゼル、ジェット燃料がそれぞれ48%、28%、4%となる。少なくとも米国の場合はEVに好意的な普及シナリオでもEVが多数を占めることは現実的でない。

 

補助金に頼るEV販売の危うさ

 また重要な問題は普及のために政府補助金(税金)が(再生可能エネルギー導入同様に)投入されていることだ。例えば米国の場合、EV購入者は7,500ドル(約83万円)の補助が受けられる。補助金がなくなるとEV購入者が激減する。香港では補助金がなくなるとテスラEVはまったく売れなくなり、中国大手EVメーカーのBYDは補助金がなくなると売り上げが四半期で34%減少した。

 

グリーンとは言えないEV

 最後に環境保護の観点でEVは果たして100%グリーンと言えるのかについて簡単に記しておく。イーロン・マスクが環境保護の立場で自社EVを賞賛する。しかし現実にはEVは電力を利用して走行中に排出ガスを出さないだけで、発電を考えていない。発電の形式の比率(エネルギー・ミックス)は各国で異なるが例えば日本の場合を考えると、2015年で化石燃料(火力発電)が84.6%、再生可能エネルギーは4.7%に過ぎない。そういうところでEVを乗ることは排出ガスを自分では出さなくても、実際には環境汚染に協力していることになる。

 

 客観的に見ればEVのメリットに環境保全を掲げることには疑問符がつく。またICEの全てをEVで置き換えることが困難である以上、EVにのみ未来を託すことは難しい。ただしテスラEVをデザインと技術の両面で超えるEVが続々と現れたことで、ICE車も含めた自動車産業にとって革新の風が吹き出したことも事実である。そうした先進的EVに(かつてのアイフォーンのように)魅力を感じて購入することは個人の自由である。

 

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