イタリアの「ゾンビ銀行」の破綻処理

28.06.2017

Photo: hangthebankers

 

 イタリア政府は過去最大の公的資金による銀行の破綻処理に踏み切った。スペインの銀行バンコ・ポピュラールの「ベイルイン」救済に続き、欧州の金融システムの安定化を図る目的で、イタリアの中堅銀行2行は公的資金総額170億ユーロ(約2兆1,170億円)によって破綻処理されることになった。

 

救済されるゾンビ銀行

 イタリア北東部にあるヴェネット州に拠点を置くイタリア第13位のバンカ・ポポラーレ・ディ・ビチェンツァと第14位のベネト・バンカの2行はこれまで、「ゾンビ」銀行と言われる程、膨らみすぎた不良債権により実質的に経営困難の状況にあった。ヴェネット州はイタリアでは経済的に豊かな地域で、経済の原動力となっている多くの中小企業が集中している。

 

救済策の特徴と背景

 今回の銀行救済の注目点は、銀行の優良資産と不良資産の処理を分けて処理することにある。2行の優良資産はイタリア第2位のインテーザ・サンパオロに1ユーロで売却、回収が困難な不良資産は政府によって処理されることになる。さらに、インテーザ・サンパオロには将来発生する可能性がある損失に対し約52億ユーロが供給される。

 

 欧州法では、2016年から公的資金による銀行救済「ベイルアウト」を規制、株主、劣後債の保有者、預金者が救済資金を負担する「ベイルイン」制度を導入している。今回、欧州委員会はイタリア政府が提示した破綻処理案を承認したかたちとなり、欧州法が適用されない例外となった。

 

 その背景にはドイツ銀行やフランスの銀行が大株主であることに加え、多くの欧州銀行がイタリアの銀行の社債を保有していること、劣後債の保有者の多くは年金生活者の一般市民であることが大きく影響している。欧州の他の銀行への連鎖的な悪影響と市民による預金解約や銀行の信用低下による銀行取付け騒ぎ、社会混乱を未然に防ぐ策であった。今回の処理で2行の優良資産(預金の保護)と行員の雇用の維持は確保された。

 

残されたゾンビ銀行をどうするか

 イタリアではテキサス・レシオ(注1)が200%を超える深刻な「ゾンビ化」状態にある銀行は24行にのぼる。その中に含まれていたのがテキサス・レシオ210%のバンカ・ポポラーレ・ディ・ビチェンツァと239%のベネト・バンカであった。残り22行も不良債権問題で経営難にある状態で、破綻処理が必要となる事態にある。

 

(注1)テキサス・レシオは銀行の健全性を示す指標の一つである。銀行の不良債権残高における有形自己資本と損失割り当て準備金の割合を示す。失う可能性の高い資産(不良債権)に対して、どれだけの資金を準備することができるかを示し、銀行の不健全性を指数化したものである。

 

今後は回避できないベイルイン

 OECDの予測では、2017年度のイタリア経済成長は1%、2018年度は0.8%となる。低迷する経済状況のなかで、今回イタリアの年間防衛費に匹敵する額が中堅2行の銀行救済に投入されたことになる。しかし22行にものぼる他の破綻危機にある銀行を全て公的資金で救済するのは不可能である。いずれ「ベイルイン」による破綻処理が避けられなくなるのは時間の問題である。

 

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