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5日に始まった「反カタール」連合によるカタールとの国交断絶の背景には、①化石燃料資源の格差、②カタールのイランとの深まる関係、③中東の中でのサウジアラビアの脅威となっているイランの勢力と影響力の拡大、④サウジアラビアの財政悪化、⑤メディア帝国アル・ジャジーラ放送の影響力の拡大などがある。
カタールの弱体化を図ろうとしているサウジアラビアだが、カタールは服従するどころか、カタールを含め中東に新たな勢力が台頭するきっかけを作った。湾岸協力会議(GCC)の加盟国のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、イエメン、エジプトとモルディブ、モリタニア王国のアラブ7カ国は5日に、カタールのテロ組織の支援とイランとの良好な関係を批判し、報復として同じ加盟国のカタールとの国交を断絶した。
サウジアラビアへの武器輸出
トランプ大統領のサウジアラビア訪問中にアラブ・イスラム50カ国首脳とテロ対策を協議、イランは中東の安全保障に対する脅威とみなすイランを敵視し、サウジアラビアとの1,100億ドル(約12兆円)規模の武器売却に合意した。今回のカタールへの国交の断絶のきっかけとなったのが、カタール・ニュースが報道した、カタールのタシム首長の「アラブ版 NATOは必要ない」の発言である。
その直後に発足した「反カタール」連合は、カタールとの国境を封鎖、陸路、海路、空路による交通を断絶、銀行間取引を停止するなど、カタールを完全に孤立させる敵対行為を取っている。
強まる「反カタール」連合の圧力
「反カタール」連合はカタールにテロ組織の「ムスリム同胞団」と「ハマス」への支援を停止、イランとの外交関係の即時断絶、アル・ジャジーラ放送に全ての湾岸政府への暴言謝罪とその放送停止、GCC政策に反する行動を自粛し、憲章を遵守するなどを含む10項目の条件付き最終宣告をだし、カタールに従うよう圧力をかけた(注1)。
(注1)歴史的にはサウジアラビアがカタール政府に不満をもち、制裁を加える手段をとったのは今回が初めてではない。アル・ジャジーラ放送はカタール以外の独裁体制の中東諸国を批判する場を提供してきた。2014年にカタールはムスリム同胞団を支援した結果、エジプトで「アラブの春」が起きた。サウジアラビアが支持していたムバラク政権は転覆し、ムスリム同胞団のムルシーが大統領となった。この時サウジアラビアの政策に反したとして、サウジアラビアはカタールへ制裁を実施、その後両国の関係が正常化するまで8カ月要した。
テロ組織への支援
カタールがこれまでイスラム過激派組織を支援してきたことを批判されるのも、今回初めてのことではない。カタールはムスリム同胞団以外にも、ハマス、イエメンではサウジアラビアが戦っている反政府勢力の「フーシ」を支援している。イランもまた、シーア派の武装組織のヒズボラ、ハマスなどを支援、勢力拡大を果たしてきた。
しかし、アメリカ、サウジアラビアとスンニ派湾岸諸国は、シリアのアサド政権を倒すため、中東でのイランの勢力拡大の脅威に対して、スンニ派過激派組織、反アサド過激派組織を支援、これらの組織を利用してレバノン、イラク、シリア、イエメンなので代理戦争を行ってきた。中東の紛争拡大の背景には、イスラム過激派組織を支援してきた中東の国々とそれらを支援してきた大国である。カタールへのイスラム過激派組織支援の批判は説得力がない。
トルコ、イランからの支援で骨抜きになるカタール包囲網
サウジアラビアの軍事侵略に備え、カタールは軍隊を警戒レベル最高レベルに引き上げた。カタールの領海区域に潜入した場合、攻撃は辞さないと隣国のサウジアラビア、UAE、バーレーンに警告を出した。
過去にカタールと同様にムスリム同胞団や反アサド勢力を支持してきたトルコは、カタールにトルコ軍部隊を派遣すること表明した。トルコは既に2014年に、カタールに軍事基地を設立、カタールとの軍事関係の強化を行ってきた。
イランはサウジアラビア経由で食料の供給を遮断されカタールに食料の輸出を行い、カタール航空にイラン経由での運行許可を与えるなどGCCによる国交の断絶に影響を受けない体制を作りあげている。皮肉なことにカタールを押さえ込もうとしたGCCの企ては、国交断絶をきっかけに中東の勢力地図を書き換える動きを加速することとなった。