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米ハワイ州で、15日に「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」又は統一最低所得制度の導入の検討を始める法案が満場一致で州両上下院で承認された。特定の州でベーシック・インカムの検討を始めるのは米初となる。
ベーシック・インカムの内容
ベーシック・インカム法案の骨子は、
①全てのハワイ州の市民は基本的な生活保証を受ける権利を持っていること
②ハワイ州の経済状況を正確に把握するための行政整備を行ったのちに、適切なベーシック・インカム支給制度を導入することが条件となることの2点である。
ハワイ州の全ての市民がベーシック・インカムの支給対象となり、無条件で一律に決められた最低所得が支給される。ベーシック・インカム制度は本来の目的である貧困層の救済のほか、将来の雇用対策(注1)として重要視されている。
(注1)Industry4.0(IoT)によって将来、第4次産業革命が起こり、工場労働者の多くはロボットにとって代わられると考えられている。ロボットに奪われる職種に関する調査研究で20年以内にロボットに奪われる可能性が高いとみられる20の職種を選定し、職種ごとのロボット化の確率が予想されている。
ニクソン大統領が試みたベーシック・インカム制度
アメリカ史で、社会保証の一環としてベーシック・インカム制度の導入を検討した時期が一度ある。1969年にリチャード・ニクソン大統領はアメリカにおける貧困の撲滅、貧富の格差対策として、貧困家庭を対象に無条件の最低所得制度の導入を検討していた。
家族4人に年間1,600ドル(現在価値で 10,000ドル、106万円に匹敵する)が支給されることになっていた。だが、中流階級の人口の増加と共に、19世紀の英国で典型的な考えであった「貧困層は働かない」の考え方が一般的であったため、議会で法案として成立することはなかった。働かない人々に所得を与えるのは不公平だという考え方の勢力の方が貧困撲滅支持者より強かったのである。
ベーシック・インカム制度を実験的に導入
世界でベーシック・インカム制度を実験的に導入しているのが、フィンランド、ドイツやカナダである。フィンランドは2017~2019年の2年間、ドイツでは(政府ではなく)、民間プログラムMein Grundeinkommen を通じて、カナダのプリンスエドワードアイランド州とオンタリオ州で今後予定されている。またインドは現在、導入の検討を進めている。
ベーシック・インカム制度のもう一つの狙いは、所得格差が増大しすぎて社会を支えるべき中間層の消滅で社会が不安定化することを食い止めることもある。またAIとロボット化で奪われる雇用対策も重要な視点になる一方で、貧困対策より社会秩序を持続させる意味合いが加わった。しかしそのための財源をどうするか、現実的には問題解決の糸口が見えていない。
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