マイナス金利政策が具体化する可能性

18.08.2017

Photo: thebalance

 

 前世界銀行のチーフ・エコノミストで現ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏はこれまで、紙幣の少ない社会(高額紙幣の廃止を始め、段階的に紙幣の廃止)とマイナス金利政策の導入を提唱してきた。発言の度に注目を集めるロゴフ教授は、最新の論文では、次の不況又は金融危機時には中央銀行が取れる最も有効な金融政策はマイナス金利政策で、その導入を可能とする条件、法整備を今から整えることの必要性を主張している。

 

ロゴフ教授の論理

 

 ロゴフ教授は、流通している全紙幣の約80%を占める米高額紙幣の100ドル札の廃止に続き、50と20ドル札を段階的に廃止、流通紙幣の僅か3%を占める10ドル以下の紙幣を残すことで、完全なキャッシュレスな社会でない、紙幣の少ない社会を目指すこと推奨してきた。個人のプライバシーを守るためとしているが、全流通紙幣の3%を残しても、少額の取引決済に限られ、また紙幣の入手も難しくなるとも考えられ、その不便さから現金が全く使われなくなる可能性の方が高いともいえる。

 

 マイナス金利政策は貯蓄預金を減らし、「タンス預金」が増えるとして現実的に導入が避けられてきた。しかし、現金がほとんど廃止された場合、そのリスクは解消される。ほとんどの決済はクレジット・カード、デビットカード、電子マネーに置き換えられることになり、電子決済が主流となる。仮想通貨以外の電子決済は銀行口座がなければ、成立しないため、金融政策の一環として、預金口座に対してマイナス金利を適用することができるようになる。

 

現実味を帯びるマイナス金利政策 

 1950年以来、米国の9回の景気後退には金利引き下げが重要な金融政策であった。だが、現状のほとんどゼロ金利状況では金利を大幅に下げることはできず、マイナス金利政策しか残されていない。中央銀行の金融政策が原因で起きる景気変動が、不況になれば、預金へのマイナス金利政策でその責任と負担を一般市民が負うことになるというのはおよそ不合理な考え方である。

 

 2018年2月に任期満了となるFRBのイエレン議長。次期議長の有力候補として名前があがっているのがロゴフ氏である。そのため、ロゴフ氏の発言がFRBの政策の方向性を示す可能性は高い。マイナス金利の議論はますます本格化していく危険性を注視しなければならない。