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太陽光のネルギー変換効率が50%を超えたというニュースがあったのは最近のことである。じわじわ改善が続いてきた太陽光発電もここまで効率が上昇すると「発電コストの壁」とされるkWあたり7円が視野に入る。蓄電システムのコストが上乗されるが、原子力と火力・水力の独壇場であったベース電源化に一歩近づいた。
太陽電池の変換効率を上げる工夫は物質固有のエネルギーギャップを適当に選ぶか多重セル構造で太陽光のスペクトルをできる限り変換することが主流であった。神戸大の研究グループは太陽光スペクトルの低いエネルギーの光を使って変換効率50%以上が可能であることを示した(Nature Comm. 8:14962 2017)
Credit: Nature Comm.
フォトンアップ・コンバージョンと呼ぶ新しい方法ではAl0.3Ga0.7As/GaAsヘテロ界面にInAs量子ドットを仕込んだ特殊なヘテロ構造が用いられる。表面側にあるAl0.3Ga0.7Asのギャップより高いエネルギー光子(黄緑の矢印)の吸収でできたホールと電子はそれぞれp層、n層に流れ込む(上図参照)。
Al0.3Ga0.7Asのギャップ以下の低エネルギー光子(オレンジ色の矢印い)はInAs量子ドットとGaAsを励起し、長寿命の電子は一旦ヘテロ界面にトラップされるが、低エネルギー光子(赤い矢印)でAl0.3Ga0.7As障壁を越えて励起される。
この2段階アップコンバージョンで光電流がこれまでの20倍に増加するとともに起電力の増大も確認された。光吸収の電圧と電流増加の相乗効果で発電容量の大幅な改善が可能となり、全体の変換効率は50%を超えることが示された。赤、オレンジ、黄緑の矢印の順にエネルギーが高くなるため、太陽スペクトルの吸収が増える。界面の量子ドットが電子を一時的に局在して、再励起に使えることがポイントである。
ヘテロ界面と量子ドットを組み合わせたアップコンバージョンで効率は50%以上が達成できる見通しが立った。しかしIII-V族のヘテロ構造と量子ドットをつくるコストが高いので、コストがボトルネックになるが、高効率化の指針が得られた意義は大きい。アップコンバージョンのアイデアは生かして低コスト材料とヘテロ界面製造技術の展開が期待される。当面は高級市場向けには実用化できる夢の技術である。