対ロシア制裁で孤立を深める米国

29.07.2017

Photo: telegraph

 

 ウクライナ問題で西側諸国が2014年に初めて対ロシア経済制裁を発動して以来、3回目の制裁延長が7月末に終了した。アメリカは25日にロシアが去年の大統領選に関与したとされる問題で、新たな制裁強化を科す法案を、上院に続き議会下院でも可決した。しかし、これまでロシアへの制裁に協調してきたEU(特にドイツ)は制裁への強い反対姿勢を表明し26日には、対ロシア経済制裁がEUのエネルギー投資を制限、ヨーロッパの企業や経済に影響を与えるとして、対抗措置を講じると警告している。

 

対ロシア制裁の強化

 今回の新たな経済制裁の対象となるのが、ロシアとドイツを直接結ぶ天然ガスのパイプライン、ガスプロムのノルド・ストリーム2(注1)の建設プロジェクトに参加や融資する欧州企業である。ノルド・ストリーム2の建設で、ドイツは欧州諸国への天然ガス供給ハブとなる見込みである。それ以外にも、カスピ海経由の新たな石油・天然ガスパイプラインやエジプト沖のZohr 天然ガス油田のパイプライン建設プロジェクトなどその他のエネルギー開発プロジェクトに参加しているロシア企業も制裁の対象となる。

 

(注1)ノルド・ストリーム2の建設と2019年から開始する天然ガス供給に関わっているのが主に、ドイツ最大の石油・天然ガス企業のヴィンターシャル(Wintershall)、電力・ガス供給するヨーロッパ有数大手エネルギー会社のエーオン(E.ON)のスピンオフ会社のウニバー(Uniper)の他、オランダのロイヤル・ダッチ・シェル、オーストリアの中欧石油大手のオーエムヴイ・エージー(OMV AG)、フランスの電力・ガスの供給で世界2位の売り上げをもつエンジー(Engie)である。

 

 EUがさらに恐れているのが、ロシアの企業と事業を行ってきた鉄道、運送、金融、鉱業などのエネルギー以外の分野の欧州企業も、経済制裁の対象となる可能性である。ロシアとの関わりで、欧州企業は多額の制裁金を課せられるだけでなく、事業や投資の停止に追い込まれる可能性さえある。

 

EUのロシア依存関係

 EUにとってロシアは3番目に大きい貿易相手で、ロシア市場への依存関係が強い。ロシアは主に原油と天然ガスを供給、EU諸国は農産物、食品、機械工学製品、製薬、自動車、工業商品などを輸出している。ロシアへの制裁前の2013年には年間貿易額は770億ユーロであった。中でもロシアへの投資はドイツ企業3万社が関わっており、6,000社以上はロシアに事業拠点をもって、投資額は200億ユーロにのぼる。

 

 オーストリア経済研究所の2015年予測では、対ロシア制裁が数年続いた場合、EUの経済損失額は920億ユーロ、220万人の雇用が失われるとの計算を発表していた。経済への悪影響を懸念して2016年頃から、最も影響を受けてきたドイツ、フランス、スペイン、イタリア、英国、エストニアなどで対ロシア制裁への批判が高まっている。

 

 

Credit: eureporter

 

 ノルド・ストリーム2(上図)のパイプライン建設は低価格の天然ガスの重要な供給源である。米国が代わりに提案している米国からの石油・天然ガス供給は価格面で不利で、エネルギー事業の開発がもたらす経済効果もない。もはや、対ロシア制裁は米国と足並み揃えての政治的な決断より、EUの存続に大きく関わる経済問題となっている。

 

欧州を巻き込む制裁戦争

 そのため、EUは米国とは反対に、ロシアとの関係の正常化と関係強化を目指している。今後EUは、米対ロシア制裁が欧州企業に影響がないような措置、または米国への経済的措置をとる可能性が高い。これまでの米国とロシアのみでなく米国とEUの間に制裁戦争が拡大する懸念が強まった。

 

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