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ロシアでは仮想通貨のマイニング(採掘)(注1)を行う若者が増えている。数学とプログラミングに秀でた若者層が熱いロシアならではの背景があるが、彼らは現在流通している通貨(システム)がやがては、仮想通貨に置き換えられると考えている。
(注1)仮想通貨では取引記録を取引台帳に記録される。それにはネットワーク上に分散されて保存されている取引台帳のデータと、取引のデータ照合しアップデートする作業をネットワーク上でワークシェアしている。その作業の対価として支払われる報酬。
プーチン大統領に近い若い実業家のマリニチェフ氏もその一人である。マリニチェフ氏はサッカー場ほどの敷地の旧ソ時代の自動車工場跡地を手に入れ、計算機リソースを投入して仮想通貨のワークシェアに専念している。
このような個人所有の計算機リソースが(仮想通貨システム)ブロックチェーンを支えている。つまり仮想通貨では銀行がない代わりに世界中のネットワークにその機能が分散され、取引が公開の監視下に置かれることになるので、偽通貨の流通や紛失があり得ない。
マイニングとはいわば仮想銀行のワークシェアの報酬なので、言葉から想像されるようなイメージとはかけ離れた地味で大量の計算機リソースを供出する作業になる。このような仮想通貨マイニングを専門とする企業や若手実業家がロシアで急激に増加している。
ロシアで急速に拡大する仮想通貨
マリニチェフ氏は仮想通貨の仕組みの理解には煩雑な数学とネットワークの知識が必要とされてきたが、マイニング作業が近年飛躍的に簡単になり特殊な技能を必要としなくなったことが急速に拡大しているマイニング人気の理由だとしている。
そのためロシアで販売されるPCも従来のゲーマー向けのビデオグラフック強化ボードの代わりに、仮想通貨マイニングの計算能力を上げるためのボードを搭載したものが増えている。マリニチェフ氏は最新のマイニング専用PCの販売のため投資家に1億ドルの資金援助を募っている。
専用のマイニングツールを持つことによって、誰でも仮想銀行の業務シェアで仮想通貨の報酬を得られることになる。ビットコインと競争相手のイーサリウムの仮想通貨が過去最高の価値を記録したことで、個人のマイニングビジネスに拍車がかかった。2017年に入ってからビットコインの価値は現在、4倍、イーサリウムは4.5倍となっている。
マイニング作業には強力な計算機リソースが必要
マイニング作業は簡単になったとはいえ、膨大な計算機リソースがないと「報酬」に値するワークシェアができない。個人でそのようなリソースを持てたとしても電気代が平均家庭の数倍にも達するので、誰でもが参入できるというわけではない。
この秋には仮想通貨の所持とマイニングを規制する法案が提出される。現在のロシアには規制の根拠となる法的基盤がない。仮想通貨に懐疑的であったロシア政府もようやく仮想通貨の力を認めることになった。プーチン大統領もイーサリウムの市場拡大を希望するイーサリウム設立者と会談している。昨年ロシアは独自の仮想通貨を持つことや「仮想中央銀行」の構想を持っていることを明らかにしている。またロシアは国営の仮想通貨マイニングセンターを設立する予定であることを副首相代理シュバロフ氏が認めた。法的基盤を整えた上でマイニングを国家事業とするロシアは仮想通貨大国への布石を着々と進めている。
仮想通貨流通拡大のエンジンは何か
ロシアで急速に拡大する仮想通貨は身近な存在となったマイニングの影響が大きいが、仮想通貨の意義と強みが一般に評価されつつあることは否定できない。しかしマイニング人気だけでは仮想通貨の拡大につながらないとする見方もある。仮想通貨人気は高まる通貨危機と裏腹の関係にある。その価値は既存通貨の健全度のバロメーターといえる。持続可能な仮想通貨の拡大のエンジンは既存通貨への危機感なのかもしれない。