Photo: capitalfm
イエメンで発生したコレラの犠牲者は急激に増加しており、3月30日から現在までに800人以上が死亡している。国境なき医師団はコレラ発生に対処するため対策チームを結成、現地の5カ所の病院に隔離施設を設置して治療に当たっている。
イエメンは2015年からの戦争(注1)で疲弊し、病院の多くが閉鎖された状態にある。そのためイエメンに住む数100万人の人々は医療を受けられない環境にあった。また2016年9月から病院の職員の給与が停止され、病院の運用に必要な資金が不足している。国境なき医師団によれば、病院での医療機能が失割れたため、イエメン政府のみではコレラの大量発生に対処できないという。
(注1)2015年1月22日のフーシ派によるクーデターによって、大統領と首相が辞任したことで内乱が始まった。その後、大統領派が対抗しフーシ派との内戦が激化した。戦争によって2015年には600万人に食糧難に陥った。
5月からのコレラ感染者は医療体制の不備、食糧危機、飲料水の汚染など複数の要因が重なって、急激に増加した。1カ月で感染者は7万人、うち800人が死亡した。現在は死者数が1時間で1人という最悪のものとなっている。空港は閉鎖され国外からのメデイアや医療関係者も立ち入れない。下図のように発生地域はアデン湾に近い広範囲の地域で「感染の閉じ込め」ができなかったことを示している。
Credit: undispatch
戦争が激化するイエメン
サウジアラビアによる隣国イエメンの空爆(2015年3月26日)はイスラム教スンニ派諸国のサウジアラビアを含む、ヨルダン、エジプト、モロッコ、クウェイト、バーレーン、カタール、UAE、パキスタン、スーダンの10カ国による連合で、「ディサイシブ・ストーム作戦」として展開されている。
それに対し、イエメンの反対制派を支援している国は、イラン、シリア、レバノンとイラク。もちろん、イランの後ろ盾となっているのは、ロシアと中国である。イエメン空爆は世界最大の油田があるアラビア半島でのサウジアラビアとイランの代理戦争に発展する恐れがある。
イエメン政府は事実上2派がそれぞれの政府を擁立することになったが、長期にわたる内戦で政府機関の機能が失われていることが、今回のコレラの大量発生(注2)につながった。
(注2)コレラはコレラ菌に食事や飲料水で感染する。コレラの大量発生は2009年にジンバブエで3,000人の犠牲者を出した。ワクチンは開発済みであり、適切な医療処置と隔離、消毒で感染拡大を防げるが、現在のイエメンにその能力がない。
内戦の背景にあるのはアラビア半島の石油資源を巡る大国の利権を巡る干渉である。今後の感染の拡大を防ぐには国外からの医療支援が不可欠であると同時に内乱の早期終結が望まれる。
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