Photo: bbc
米海軍の第7艦隊イージス駆逐艦ジョン・S・マケインが、シンガポール沖のマラッカ海峡で石油タンカーとの衝突事故は、今年に入って3件目、1年間で4件目の衝突事故となる。第7艦隊にとって、高度な技術を搭載しているイージス艦だけに、米海軍は全艦艇を対象に安全確認のための数日間の運用の一時停止を命じたが、「GPSスプーフイング」と呼ばれるサイバー攻撃の可能性も指摘されている。
事故の概要
2016年
8月19日 大陸間弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦ルイジアナが、米ワシントン沿岸で海軍の小型補給艦と衝突する。
2017年
1月31日 ミサイル巡洋艦アンティータムが横須賀基地の提供水域内で停泊していた際、浅瀬に接触、スクリューの損傷と油圧作動油が流出する事故となる。
5月9日 ミサイル巡洋艦レイク・シャンプレインが日本海の公海上で、韓国漁船と衝突する。原子力推進航空母艦カール・ビンソンなどと連合海上訓練中で起きた事故である。
6月1日 イージス駆逐艦フィッツジェラルドが伊豆半島沖でフィリピン船籍コンテナ船と衝突、乗組員7人が死亡、極めて大きな損傷を受ける。現在横須賀基地のドックに停泊中だが、9月末には米国での修理のため帰国する予定である。
8月21日 イージス駆逐艦ジョン・S・マケインが、シンガポール沖のマラッカ海峡で石油タンカーと衝突、乗組員5人が負傷、10人が行方不明となった。
サイバー・ハッキングの可能性
元海軍諜報スペシャリストで現米サイバー調査会社(Wapack Labs)のJeff Stutzman氏は、このような艦船事故を防ぐための多くの人が関わっているため、事故は単なる人為的ミスと考えるのは難しいと指摘している。また、衛星ナビゲーション・システムのエキースパトでテキサス大学のハンフリーズ教授も、海軍艦船衝突が起きる確率からみても、4件の事故が起きることに疑問を示している。
ハンフリーズ教授によると、6月に黒海でGPS通信の操作で、航海中の船20隻のナビゲーション・システムが正常で作動していたにも関わらず、別の位置に誘導されていた事件があった。「スプーフィング」と呼ばれる技術が使われた疑いが高い。「スプーフィング」は偽の情報を送り込んで管制用のコンピューターを制御する。衛星からの信号よりも強い信号を使ってGPSシステムに侵入、コンピューターに誤った命令を送って船を操った可能性がある。ハンフリーズ教授は「GPSスプーフィング」技術(下図)を使われたサイバー攻撃の可能性もあるとしている。
Credit: spirent
ハンフリーズ教授の研究チームは2012年に無人航空機のGPSシステムに侵入して、1,000ドル以下の機器を使って無人機を乗っ取るのに成功したことで知られている。
GPS撹乱が特定艦船を対象としたものでなければ、他の艦船にも異常が起きるとしてサイバー攻撃の可能性が低いとする考えもあるが、偶然の事故とは考えにくく、GPSスプーフイングの可能性は消えていない。
多発する事故の責任をとる形で23日、第7艦隊のジョセフ・アーコイン司令官を解任された。海軍当局は当初、サイバー攻撃の可能性を否定していたが、今後の詳細な事故調査ではサイバー攻撃を対象から除外しないとしている。サイバー攻撃が事実であれば、今後の米海軍の作戦能力への大きな影響は免れない。
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