Photo: iscr.univ-rennes1.fr
ユタ大学の研究グループはスピントロニクス研究の「ゲーム・チェンジャー」となる可能性を秘めた斬新な有機―無機ハイブリッド・ペロブスカイトの開発に成功した(Nature Phys. May 29 (2017))。
スピントロニクスでは従来の電子回路の基盤となる電子の流れの代わりにスピンの向きが上向か下向きかをロジックに使う。電子の流れを使わないことで発熱を抑え、回路の集積かの制限もなくなる夢の電子回路となるスピントロニクスだがこれまで、有力な物質が見つかっていない。研究グループが開発した有機―無機ハイブリッド・ペロブスカイトは有望な材料候補となり、スピントロニクス実用化に一歩近づいた。
この物質ではスピン制御が容易であること、スピンの流れでスピンの向きが保存される(スピン寿命が長い)という、スピントロニクスに必要とされるこれらのふたつの条件を備えている。有機―無機ハイブリッド・ペロブスカイトはこれまでにも効率22%の高効率太陽電池材料として注目されていた新しい電子材料であったが、無機ペロブスカイトを構成する重原子はスピン反転は優れていたがスピン寿命に難点があった。
研究グループはメチルアンモニウムヨウ化鉛(CH3NH3PbI3)を使ったハイブリッド・ペロブスカイト薄膜をつくり、80万ショット/秒の超高速レーザー光に照射し、スピン反転を試みた。レーザー光を分けてひとつはハイブリッド・ペリブスカイト薄膜に入射させ、もう一方は遅延させてから入射させてスピン寿命を調べた結果、スピン寿命が驚異的に長いナノ秒オーダーとなることをみいだした。下にスピン寿命の温度変化、2成分比の温度変化とそれぞれのg値の温度変化を示す。
Credit: Nature Physics
研究グループはまた磁場中で寿命内に10回以上スピン反転が可能であることも確認した。これまでの長い材料探しの段階からハイブリッド・ペロブスカイトという実用的な物質で、スピントロニクスはこれから回路の検証という次の開発段階に入る。