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CRISPRは癌治療やHIV治療の最終兵器として期待され、すでにヒト遺伝子治療が始まったゲノム編集技術だが、コロンビア大学の研究グループの研究によれば、特定箇所のCRISPR編集によって、意図しない数100箇所の遺伝子変異が生じる恐れがあることがわかった。研究は単一塩基や翻訳されない遺伝子など標的以外の変異が同時に生じることで危険性があると指摘した(Nature Methods 14 6 547 (2017))。
CRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)はDNAの塩基配列が反復される場所を意味する略表記である。最大30に及ぶ塩基配列がくり返される場所が存在し、DNA配列が確定している40%の細菌類と90%の古細菌でその存在が確認されている。
特にCRISPR-Cas9編集技術は病気の原因となる遺伝子変異を特定し、積極的に標的を編集して治療に役立てるこの手法は遺伝子編集の精度が高いとして、新しい遺伝子を追加するだけでなく不良箇所を修復することが期待されている。
CRISPRは実験室の細胞組織の標的では完全なゲノム編集能力があるが、生きた動物で標的以外のゲノム変異を引き起こすかどうかは確認されていない。今回の研究で研究グループが行ったCRISP編集後のマウスの全遺伝子配列を調べた。
その結果、CRISPRは網膜異常の原因である遺伝子標的を正しいものに編集することには成功したが、2例の被試験体が合計1,500箇所の単一塩基変異と100箇所にわたって欠損や挿入などの誤編集があることがわかった。標的以外の変異を予測するシミュレーションでもこれらの変異は予測できなかった。
Credit: Nature Methods
このことは全遺伝子配列の決定をしなければCRISPRによる標的以外の遺伝子変異が予測できないことを意味する。そのためCRISPRの改良が必要になり遺伝子切断の酵素分子とガイドRNAの編集効率の向上が求められる。
2016年10月28日、中国人医師チームによってCRISP―Cas9と呼ばれる遺伝子編集を受けた遺伝子が世界で初めて人間に注入された。肺癌患者の血液から免疫細胞を抽出し、CRISP―Cas9(ゲノム編集技術)により遺伝子の特定場所を分子標的化させてDNA切断酵素により切断しある機能を停止させた。この機能は免疫機能を抑える蛋白質(PD1)によるもので、癌細胞はこの免疫機能を弱めることで増殖すると考えられている。
ペンシルバニア大チームの遺伝子編集技術を開発したあと、米国と中国の研究者らの熾烈な競争が続いていたが、世界初となる人間での試験は中国の研究チームによる(Nature News 15 Nov. 2016)。米国では動物に対してのゲノム編集は認可されていたが、細菌を利用したDNA編集ツールCRISPRの癌治療を目的としたヒトDNAへの適用を認め、2018年には中国に続く試験的試みが予定されているが、今回の研究結果はより慎重なCRISPRゲノム編集の評価、特に動物への遺伝子変異の影響)が必要になるとみられる。