Photo: teslarati
テスラEVのバッテリー劣化データをテスラ社は公表していないが、テスラEVのバッテリーは(TESLAと刻印されているものの)同社の開発によるものでなく、パナソニックのPC用Liイオンバッテリーを「流用」したため、そもそも公表する権利を持たないと思われる。航続距離の長いテスラ社のEVにはパナソニックのPCバッテリーが数1,000個使われている。
テスラEVのバッテリー容量劣化測定データがテスラフリークやユーザーコミュニテイのウエブで公表されている。テスラEVのバッテリーはパナソニックセルの集合体であり、セルごとのきめ細かい管理システムが特徴であるが、その組み合わせが全体の信頼性を高めることになるのか興味深い。
下にテスラEV(Model S)の(車内のデイスプレイで表示される)フル充電後の残存航続距離データを紹介する。ユーザーコミュニテイの公開データはPublic Google Fileで参照できる。
Credit: greencarreports
プロットスケールを考慮すると、データのバラツキが小さいことがまず驚きだがこれは数1,000個のセルの集合体で、BMUと呼ばれるバッテリーマネージメントシステムが、セルの状態に最適な負荷(重み)を自由に設定するシステム最適化によるところが大きい。セル数が少ないと全体の中でそのセルの重要度が高くなり、1個が不良になっただけで全体に影響を及ぼすが、数1,000セルもあれば、セルを個別に最適化して全体の能力を最大限に引き出すことができる。
また平均的な車の寿命に相当する走行距離23万kmで93%の容量が確保されていることになる。(別の報告では25万kmで容量の劣化は10%以下)テスラEVは使い倒すまで乗っても高額なバッテリー交換が必要なくなることを示唆している。本当にそうなのだろうか。
典型的なLiイオンバッテリーの充放電サイクルを以下に挙げる。700-800サイクル以降では急激に容量低下(劣化)が加速していく。700-800サイクルを距離に置き換えると1回の充電で300km走るとして21万~24万kmなので、25万kmで10%以下の劣化は驚くべき数値ではないことがわかる。またテスラEVユーザーの多くは短時間(15分)で80%充電するから過充電のトラブルを回避していることになる。なおスマホのLiイオンバッテリーが長持ちしないのは、小型化を優先して無理な設計をしているた目なので、スマホのバッテリーとは別の世界だ。
Credit: batteryblog
つまりテスラEVはバッテリー交換の必要が実質的に無いということはあり得ることになるのだが、ではすべてのユーザーがそうかというともちろんそうでは無い。実際にはバッテリー交換するユーザーの報告もある。バッテリーのリコール統計があるはずだがテスラ社は公表していない。
テスラEVのバッテリーの高寿命の理由は数1,000個のセルごとに負荷を分散させて管理するソフトウエアとセルごとのきめ細かい情報収集と制御にあると思われる。
LiイオンバッテリーはLi金属イオンを利用した化学反応電池で構造的にはセパレータ(高分子フイルム)を挟んだ薄いLi層と正極のサンドイッチ構造である。放電中は陰極のリチウムがイオン化されて電子(電流)を発生させる。そのLiイオンは電解質中を反対側の正極に引かれて動いていき負荷を経た電子を取り込んで、再び中性金属原子となる。Liイオンの直径は小さいのでセパレータを簡単に通り抜けることができるため電極間を近づけることができ高電圧を発生できて、同時に電池を小型化できる。
エネルギー密度において他のバッテリーを寄せ付けないLiイオンバッテリーとはいえ容量劣化は避けられない。Liイオンバッテリーはバッテリーセルの構造や電極材料の開発研究が世界中で活発に行われている日進月歩の世界である。例えばLi-Sバッテリーは1,500サイクル以上で実用的な容量が残存するLiイオンバッテリーより高寿命の新型バッテリーである。
テスラEVは性能を最大限に引き出すマルチセルの管理システムで高航続距離EVを実現した。その人気はマルチセルの最適化(特に温度管理)によるバッテリー高寿命化によるところも大きい。現在までに公表されているテスラEVのバッテリー劣化データはユーザーコミュニテイのもので透明性は高いものの、サンプリングにバイアスが無いとは言い切れない。ちなみに日産リーフの新型Liイオンバッテリーは高々48セルであり、数1,000セルとなるとテスラ社以外は未経験ゾーンである。