デイーゼルゲートによる欧州の犠牲者は毎年5,000人

18.09.2017

Photo: hypermiler

 

英国が2040年までにガソリンとデイーゼルオイルの販売の禁止を目指す理由は健康被害であるが、同時にその経済的損失がGDPの1%になるとの政府試算から、猶予はできないと判断したからである。法的規制のきっかけとなったのは2015年のVW社のデイーゼル車の排出ガス規制不正(デイーゼルゲート)である。

 

これまでの研究で2015年に死亡した38,000人がデイーゼルゲートによる排出ガスの増大の影響によるとされている。ノルウエイ、オーストリア、スエーデン、デンマークの研究グループによる最新の研究(Johnson et al. Environmental Research Letters, 2017)はデイーゼルゲートによって、欧州では毎年10,000人がデイーゼル排気ガスが原因となり、呼吸器系疾患で命を落としている。不正によるNOx値の上昇がなければこのうち約半数の5,000人命を救えたとしている。

 

またデイーゼル車の排出するNOxがガソリン車並みであれば犠牲者の80%は救えた。微粒子(PM2.5)の濃度は下記の図にあるように北イタリアに集中している。アルプス越えの坂道でエンジンを吹かせるために排気ガスが周辺に充満するためで、アルプスに面したフランス、スイス、オーストリアの南部でも同じ理由で濃度が高い。

 

Credit: Johnson et al. Environmental Research Letters

 

研究によると環境汚染が深刻なのは人口が多くデイーゼル車所有率の高いイタリア、ドイツ、フランスである。これらの国では1990年代に政府指導でデイーゼル車へのシフトが加速した。そのためデイーゼル車の台数は欧州だけで1億台以上となりその他の国を合わせた台数のほぼ2倍となった。

デイーゼル車のメリットは燃費とガソリン車よりCO2排気が少ないことがある。国民は環境保全(と健康)より経済性を重要視した結果だが、責任は車メーカーと政府が一体となってデイーゼル車の普及に努めた事実は否定できない。最近ではドイツの主要な車メーカーが政府と情報共有するカルテル疑惑まで浮上している。

 

下の表にある(自然死を除く)デイーゼルゲートに関連づけられる欧州の死亡者の70%は上位4カ国(イタリア、ドイツ、フランス、英国)によるもので、人口では50%であることを考慮すればNOxによる健康被害の犠牲者が、デイーゼル車所有率に依存していることが明らかとなった。

 

デイーゼル車販売で経済成長率の底上げを狙った政府の優遇政策でデイーゼル車購入を煽り、国民は高い代償として健康被害を被った。