Credit: Nature Comm.
つい最近、超伝導物理に衝撃が走った。カイラル超伝導というこれまでは想像の世界であった新しい超伝導状態が発見されたからである(Nature Comm. 14465 (2017))。カイラルの元々の意味は量子色力学のクオークを記述する対称性のことで、その対称性の破れが陽子や中性子(ハドロン)に質量を与えることから、重要な研究テーマとなっていた。
ここでいうカイラルとは時間反転対称性を持たないという意味で、この形の新しい超伝導について関心が集まっているが、実験的に証明されたカイラル超伝導はこれまでの超伝導と異なる物性を示す。その代表的なものが一方向に超伝導が観測される、すなわち一定の方向に電子が抵抗なしに動いていく現象である。
このカイラル超伝導状態にある電子の流れを情報の流れと考えれば、新しい原理の情報通信技術に応用できる可能性がある。デルフト大学の研究グループはカイラルチャネルに沿って、情報(実際にはポテンシャル)の流れと電子流が等価であることに注目している。ポテンシャルを通じて超伝導状態によって情報を知る(伝える)ことができる。
カイラル超伝導を使うとポテンシャルの移動により、従来の電子回路ように情報を電子流として伝達しなくても、情報伝達が可能になる。情報の移動が電子流に頼らずに済めば、発熱や微細加工の限界といった問題は回避できる可能性がある(Phys. Rev. Lett. 118 177001 (2017))。下はポテンシャルで超伝導電流が生じる原理の模式図。デルフト大グループはグラフェンを使った素子が期待できるとしている。
Credit: Huang & Nazarov, Copyright: APS