世界最大のX線自由電子レーザーが稼働

06.05.2017

Photo: eontarionow

 

これまでX線領域の自由電子レーザー(XFEL, X-ray Free Electron Laser)は軟X線領域とTender X-ray領域(<10keV)のLCLS(米国)とそれより硬X線領域の光源となるSACLA(日本)が稼働していた。

 

これらのXFEL施設は、コヒレントX線短パルスで1ショットでの微小結晶構造解析やサブピコ秒領域の時間分解測定など分野で強力なプローブを提供して来たが、欧州は連携してX線領域の範囲を広げた世界最大のXFEL(European XFEL)をハンブルグにある高エネルギー物理研究所DESYに建設した。2017年5月4日、ドイツのハンブルグに建設されていた世界最大のX線自由電子レーザーEuropean XFELが完成し、試運転で発振に成功した。

 

 

European XFEL

 European XFELはEUが科学技術予算1200億円を投入して建設した全長3.4kmの加速器で、世界際短波長である発振波長0.05nm(24.8keV)を目指している。放射光の10億倍高輝度のX線領域のコヒレント光(XFEL)は単分子構造解に圧倒的な強みがある。X線領域では、物質との相互作用が小さいため、蛋白質の構造が破壊される以前に散乱像が記録できる。つまり、原理的には、1回の照射で原子レベルの構造解析に必要な散乱回折データが得られる。ドイツの欧州分子生物学研究所(EMBL)はフランスのグルノーブルと並んで欧州における分子生物学の研究拠点の一つで、欧州を中心とする構造解析研究者が集まる。

 

これまでDESYには小型(260m)の自由電子レーザーFLASHが2005年から稼働して6nmまでのVUV-軟X線領域のコヒレント光源のパイオニア的な存在であった。European XFELはその手法をX線領域に拡張し、構造解析分野で圧倒的な威力を発揮する。DESYは入射器と1.7kmに及ぶ超伝導加速器の運転を受け持ち、3.4kmに及ぶXFEL施設は両者が運営する。なおEuropean XFELは研究所組織としては異例の「会社組織」でその最大株主はDESYとなる。下はDESYのキャンパスにあるXFEL入射器部分から引き出された電子加速器とXFELのレイアウト。

 

 

Credit: European XFEL/DESY

 

9月から予定されている公開(Comissioning)では毎秒27,000パルスがユーザーに供給される。EUは科学技術予算を各国から徴収する負担金を集中投資して研究者(ヒューマンリソース)を別予算でネットワーク化して共同利用させている。これにより一国では財政負担が大きい1,000億円規模の大型施設を計画的に建設している。「一つの欧州」の理念に沿った方向性であるが、負担金の使い道がEU主導となるため、一部の研究者の批判もある。しかしEuropean XFELは世界中の研究者の注目を集め、先端科学の拠点となることが約束されている。