代謝酵素を標的とした新しい膵臓癌治療法

16.08.2017

Photo: facmedicine

 

肥満人口の増加と共に増加の傾向にある膵臓癌は癌死亡原因の3位であり、5年後の生存率は8-9%である。ボストン小児病院とMIT、ハーバード大学の研究チームはがん細胞が窒素を除くために使う酵素を標的とした新しい膵臓癌治療法を提唱している(Kalaany et al., Nature Comm. On line Aug. 15 (2017))。

 

研究によると、ARG2(アルギナーゼ2)酵素を標的とした治療が膵臓癌の増殖を抑えることを見出した。

 

研究チームは肥満と痩せたマウスにヒトの膵臓癌細胞を移植して、がん細胞の遺伝子の活性化される部分とその生成物の解析を行った結果、肥満マウスの窒素代謝に関連する遺伝子が活性化されることを見出した。

 

ARG2を標的に

膵臓癌の致死率が高いのは発見しにくく増速が早いことであるが、この研究で肥満体質ほど癌細胞の増加速度が大きく、ARG2をより多く生産することがわかった。ARG2はアンンモニアを分解して窒素を取り除く機能がある酵素。

 

研究チームは92人の患者の癌細胞を分析した結果、ARG2量が患者の体重に相関があることもわかった。さらにマウスのARG2の機能を停止させたところ窒素分解が阻害され、癌細胞の増殖が抑えられた。膵臓癌細胞の増殖が早いのはそれだけエネルギ源となる蛋白質の消費も多いということで、そのためARG2も必要量が大きい。

 

ARG2はアンモニア分解酵素ARG1(下図)に近い機能がある。ARG1の機能低下はアンモニア中毒に至るので機能を停止できない。しかしARG2は機能停止しても(マウス実験では)副作用がない。そこでARG1は手をつけないでARG2の機能を停止する薬で治療法がなかった膵臓癌の治療が効果的に行えると期待される。

 

Credit: pn.bmj