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原子操作でつくるナノ構造はSTMの登場で現実のものとなり、現在では原子操作や再配列から出発するボトムアップ手法は微細加工(トップダウン)手法と並んでナノ科学を支える基盤技術である。前者では光と物質の相互作用をナノ構造の作成に利用する試みも研究されている。このほどMITの研究グループは単分子からバクテリアを対象とした、光で動作するナノモーターの動作原理を提案した。
これまでの光による原子操作は特殊なレーザービームや機器を用い、原子や粒子を弾き飛ばしたり、接近させたり回転させる手法によるもので応用範囲が限られていた。MITの研究グループは汎用光源で光と物質の相互作用を用いたナノモーターのシミュレーションに成功した(Science Advances 2017;3: e1602738)。
研究グループはシミュレーションで性質の直径1ミクロンのヤヌス粒子(注1)を使い、光照射によって(光との相互作用により)ビームに対する粒子が回転しながら傾きを一定にする、および回転数が波長に依存することを発見した。
(注1)下のTEM像のような性質の異なる2面を持つ粒子。この研究では石英粒子の半球を金でメッキしたものを用いた。
Credit: nanowerk
下の図は光とヤヌス粒子の相互作用に基づくトルクを示したもので、(A)は直線偏光の平面波によるトルク発生を模式的に示した図、(B)は発生するトルクと力のベクトルの幾何学的配置である。(C)、(D)はそれぞれヤヌス粒子のトルクおよびトルク方向とヤヌス粒子のキャップのなす角度である。(E)はビーム方向から見た4つの回転で安定する場所を示す。
Credit: Science Advances
ヤヌス粒子の自己組織化の研究は広がりを見せている。今回の研究の特徴は特殊なレーザーでなく汎用光源で高精度の原子操作が可能なことが特徴である。応用として単分子からバクテリアに至るサイズのナノ構造を光で回転させることが可能になるので、医療分野での利用が期待されている。