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水分解反応は水素の有望な製造方法であるが、分解のエネルギー障壁を越えるエネルギー(ポテンシャルエネルギーで約1.3eV)が必要となる。光反応触媒を用いて水素を製造するのも太陽エネルギーの力を借りることに他ならない。外部エネルギーに頼らない水素製造はアンモニア分解が考えられるが、これまで分解反応を水素製造に用いる試みは報告されていなかった(Science Advances 28 April 2017 3 4 el602747)。
日本の大学を中心とした研究チームが新しく開発されたRuO2/γ-Al2O3触媒を使いて、アンモニアと酸素から室温で水素を製造する技術を開発した。アンモニアの触媒表面への吸着は発熱反応であるため、室温でも触媒表面温度は上昇し酸化が自動的に進行する。アンモニア分子のRuO2ナノ粒子表面への科学吸着及びγ-Al2O3表面への物理吸着の発熱で酸化反応を促進することがポイントで、室温で外部エネルギーに頼らない水素製造法として注目される。
なおアンモニアの製造はハーバー・ブッシュ法が工業的製造法として確立されている。これは水素と空気中の窒素分子を鉄触媒下で10MPaの高圧、500Cの高温で反応させるもので、硝酸やチッソ肥料の原料として全世界で年間1.6億トンの生産量がある。価格もそのため安いので今回の触媒で酸化反応により水素が低コストで製造できるようになる。
Credit: Science Advances
アンモニアの自動酸化の温度は90Cで新触媒の自己加熱では97Cになり自動的に酸化反応が進む。反応前に加熱によって原料のアンモニアに含まれる水分とCO2を除去するのみで水素製造反応にエネルギー源を必要としない点は、工業化のコスト低減に大きな意味がある。また触媒が酸化物のため酸化反応による劣化がない。そのためサイクル特性も優れている。
燃料電池の燃料として水素の用途は広がりをみせているが工業的な採算性は10%以上が要求されるのに対して、光触媒の効率は3%止まりとなるため、今回開発された水素製造技術は低コスト水素製造技術として採用される可能性が高い。ちなみに太陽電池を用いて水分解すれば、最高24.5%のエネルギー変換効率で水素を製造できるが、太陽電池コストや設置場所の確保の問題が残る。