Credit: J.A.C.S.
CO2排出ガス規制とエネルギー危機の狭間で悩む我々にとって唯一残された環境調和型自然エネルギー源といえば、水分解による水素生成、または植物の光合成を模して、太陽エネルギーで空気中の炭素を固定し水素やメタノールなどの燃料をつくりだす人工光合成である。人工光合成の試みは世界中で行われているが、これまでのところエネルギー変換効率(~0.1%)は植物の精巧な「分子機械」には届かない。
植物では光合成酵素PSIIが水素発生に関わる。水素発生に主眼を置く人工光合成ではPSIIを模して、太陽光を吸収しエネルギー(電荷)を輸送し正孔と電子に分離して、水を原料として燃料合成と酸素生成を同時に行う触媒反応機能分子を設計することになる。ひとつひとつのプロセスが同時に、協調して動くサイクルを人工の分子で実現しなければならない。個々の機能発現だけでは成立しないところが難しいところ。
ブルックヘブン国立研究所とバージニア工科大学の研究グループは光吸収と電荷発生を行うルテニウム(Ru)金属錯体とロジウム(Rh)を触媒として水素を発生する錯体分子を結合した人工光合成多核錯体分子を合成した。研究グループは水素発生効率を調べ、水素発生効率と持続性がルテニウム金属の数に依存することをみいだした(J.A.C.S. June 1, 2017)。
実験ではルテニウムを3個含むRu3Rh({(bpy)2Ru(dpp)}2Ru(dpp)RhCl2(bpy)](PF6)7 )に対して6個のRu3RhRu3({(bpy)2Ru(dpp)}2Ru(dpp))2RhCl2(PF6)13)では約8倍水素発生効率が高い。
Credit: J.A.C.S.
これはRu3RhのLUMOが配位子で局在化するのに対して、Ru3RhRu3のロジウムサイトでは光吸収でルウテニウムからロジウムへの電荷移動で電子供与による水素発生反応が阻害されないためである。ポイントは光吸収でできた正孔と電子を分離して、それらが再結合しないうちに水素発生を行うところだが、これまでの研究でもこれは目標で様々な取り組みがなされてきた。さらに水素発生は2電子反応であること。ひとつ目の電子の寿命内にもうひとつの電子が供給される必要がある。
研究グループは2012年にRu3Rhを合成して水素発生効率を調べていたが、ターンオーバー数(注1)は40回どまりであった。今回、ルテニウム数を増やしたRu3RhRu3では300回に増加した。これにはロジウム金属がわずかに電子窮乏状態に置かれ、光吸収後に輸送された電子を受け取る能力を増大することで達成できたと研究グループは考えている。この研究には日本人の光合成研究の第一人者である藤田博士が加わっている。
(注1)反応の生成物の分子数を触媒の活性点(あるいは活性種)の数で割った数
分子(多核錯体)設計も計算機科学の発展で効率が格段に進歩したが、研究グループは焦点となるロジウム金属を対象に、微妙なエネルギー準位の最適化を行い、超高速分光法で励起子寿命のkん即結果で実験的に、ロジウム活性を明らかにした。