新型触媒でカーボンニュートラル燃料合成が現実的に

04.07.2017

Photo: thehumanion

 

大気中のCO2濃度の低減は(温室効果防止よりも)海洋酸性化を防止する上で重要課題となりつつあるが、枯渇する化石燃料を合成燃料で置き換える必要性からも研究開発が急速に加速している。オーストラリアのアデレード大学の研究グループは空気中のCO2を固定(還元)して燃料(メタン)にする新型触媒を開発した(J. Mater. Chem. A, 5 12990(2017))。

 

研究グループが開発した物質はルテニウムをドープしたジルコニウムMOF(注1)で CO2還元反応効率が96%、メタン化反応の選択性が99%という触媒特性を持つ。この触媒構造は厳密にはZrO2ナノ粒子に担持されたルテニウムナノ粒子である。

 

(注1)metal–organic framework (MOF)は、個々の金属に適した有機フレーム。分子設計により、触媒機能、特定ガス吸着、センサー特性などの機能性を持つ多孔質機能材料を創出することができる(Angew. Chem. Int. Ed. 43, 2684–2687 (2004)).

 

 

鍵となるMOF

この触媒の特徴はドープMOFへのルテニウムドープにより作成されるZrO2ナノ粒子に担持されたルテニウムナノ粒子の触媒機能は最適化されていることで、他の方法で作成された同じ組成の触媒では得ることができない。

 

MOFを用いる合成手法以外にこの特性を持つ触媒は得られないことから、この合成手法が新型触媒の新しい製造手法となる可能性を秘めている。

 

 

Credit: J. Mater. Chem. A

 

空気中のCO2を固定しメタン化できれば燃料として使えるので、LPGガス車のように化石燃料を置き換えることは容易でEVやFCVのようなインフラ整備のコストが低い。今回の研究によって CO2固定によるメタン合成の応用は実用に一歩近づいた。

 

空気中の CO2を固定して燃料として使用するにはメタン化してそのまま燃焼させる以外に、燃料アルコール(メタノール)を合成して燃料電池で発電することもできる。これらのクリーン・エネルギーへの投資は未来への投資であるが、いよいよ実現に向けた研究開発が加速する。EVはゼロエミッションというのは運転中の原子炉同様に間違った表現である。EVは発電、原子力は燃料製造の過程での排気ガスを考慮しなければならない。EV会社のCEOがFCVを批判するのは視野が狭い。複雑系である地球環境のカーボン・サイクルを考えれば、水分解、空気中の CO2を固定はエネルギー嬉々と環境を救う残された数少ない選択肢と言えるだろう。