液体金属膜による水素分離でFCVの普及は早まるか

29.08.2017

Credit: HONDA

 

最近のEVの躍進は目を見張るものがある。イーロン・マスクが「馬鹿げている」と批判するFCVだが、発電プロセスを考慮すればEVより環境負荷では水素を燃料とするFCVの方が優れている。馬鹿げているどころか車の性能にしても航続距離やチャージ時間でもEVよりFCVの方が優れている。普及が遅いのは水素ステーションのコストが高くインフラ整備が遅いためである。

 

しかし燃料電池のエネルギー効率や貯蔵の容易さなど水素エネルギーの潜在能力は侮れない。イーロン・マスクの批判もEVの対抗勢力であるFCVを警戒するためと取れる。一方、水素製造の障壁は水素と他の元素の結合の強さ(物質の安定性)で例えば水やメタンでは脱水素(酸化)反応にエネルギーを要することである。

 

 

工業的には水素製造は触媒を利用した天然ガス(炭化水素)の脱水素反応による。高温で炭化水素を酸化してCOCO2H2が得られる(水蒸気改質)。燃料電池に用いるのは純度の高い水素であるため、これらの混合気体から水素を分離精製する必要がある。

 

厄介なプロセスの一つとなっている水素分離技術の進展は水素インフラ整備に欠かせない。現在使われている水素分離膜には高価なパラジウム金属が使われるため、インフラ普及の妨げになっていた。

 

ウースター工科大学の研究グループはパラジウムの代わりに液体金属が使えることを見出した(Yen et al., AIChE Journal online Feb. 25, 2017)。研究で用いた金属は水蒸気改質プロセス温度(500C)で液体でパラジウムより遥かに低コストであり、パラジウムのように欠陥形成もない。

 

 

研究グループは液体ガリウムを多孔質シリコンカーバイド膜で挟み込んだ分離膜で水素分離が可能であることを見出した。500Cで動作させた結果、パラジウムの35倍となる透過率

2.75x10-7 mol/msPa0.5が得られた。

  

Credit: AIChE Journal

 

水素分離が低コストかつ高効率で行えるようになれば、水蒸気法の水素単離問題が解決し、大規模な水素製造への道が開ける。水素インフラが整備されればFCVがEVの脅威になることは間違いない。イーロン・マスクが恐れたのは水素インフラが整備された時にユーザーがFCVに移行することかも知れない。しばらくはテスラEVがリードするだろうが、充電インフラ以外のアドバンテージは低下しており、10年後にどうなっているかは誰にも予想できない。

 

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