深刻化する都会の社会的孤立と孤独感

07.08.2017

Photo: tasteofcinema

 

ブリガム・ヤング大学の研究グループは、都会の社会的孤立と孤独感による精神疾患が増大する一方で深刻化していることを明らかにした(心理学会2017年会)。「人とのつながり」は快適な人間活動ばかりか生存(共存)に不可欠である。極端な場合には人(親)の保護・保育を受けられない幼児は死に至る。研究によれば米国の社会的孤立と孤独感を感じる人たちの増大が深刻化している。

 

都会の孤独

米国に住む45歳以上の4,260万人(調査対象の1/3)が社会的孤立と孤独感を感じている。その率は45-49歳の43%に対して70歳以上の高齢者では25%と少ない。既婚者は29%で独身者は51%となる。また高収入ほど孤独を感じる率は低くなる。

 

社会的孤立と孤独感を感じる人は宗教活動、ボランテイア活動、住民の会合など社会活動に無関心であると同時に趣味に費やす時間も少ない。そうした人たちの45%が引越してから1年未満で新しい生活環境に溶け込めていない。

 

英国の別の調査でも高年齢層ほど社会性が高い結果となる。メールやSNSなど情報伝達手段を使いこなす若い年齢層ほど社会的孤立感が高いのである。

 

 

Credit: bathnes

 

孤独感は精神状態のバロメーターである。孤独感がない、精神状態が良いとしたのは悪いとした人々(55%)の半分以下(25%)であった。孤独感を持つ人々とそうではない人々のメール頻度に差は認められなかったが、13%はメールの相手との関係性が薄いと感じている。孤独感を持たない人々は6%とメール相手との社交的な関係を築いている。

 

止まらない都市化

中国の農村から都市部への移動に見られる人口の都市部への集中は一般的な傾向である。2050年までに世界の都市部人口は39億人から64億人に増加し、世界人口の67%が都市部に集中すると予測されている。都市部の環境汚染、エネルギー不足、インフラの財政負担が増える一方で、農村人口の減少による食料供給不足の問題が深刻化している。

 

しかし今回の研究結果は、これまで見過ごされていた都会の重要な課題は社会的孤立と孤独感が増大し精神疾患が増えることで、やがては社会の崩壊リスクにつながることを警告する。米国社会の発展は農業から産業への転換、農村から都市部への人口移動の歴史でもあった。

 

産業化と都市化を発展とみなした近代社会に様々な問題が露呈している。都市化の先に何があるのかは近代化の先端に立って来た米国を見れば明らかになる。都市化によって格差(資産の移動)が広まったが、それと精神衛生の悪化は無関係ではない。都会化の意味を再考するべきなのかもしれない。