Credit: Nature Comm.
燃料電池を搭載したFCVは水素を燃料として発電しモーター駆動で走るがその際に排出されるのは水だけで環境保護の観点で優れているが、水素供給インフラの整備と燃料電池の寿命を決める電解質の劣化問題が課題であった。デラウエア大学の研究グループは、燃料電池(電解質)を低価格で長寿命にする新技術を開発した(Zheng et al., Nature Comm. 8, 418 (2017)。
基本的な電気化学反応は水の電気分解の逆反応となる。通常の燃料電池では白金触媒が使用されるが、白金のコストが燃料電池価格に影響する。研究グループは安価なタングステンカーバイド(WC)ナノ粒子を用い、従来より小型で大量生産に適した燃料電池を開発した。
WC材料は高温(1,500C)で処理されるがその時に粒子同士が凝集して塊となるため、表面積が小さく触媒活性が低い。研究グループは水蒸気処理、分離、還元、浸炭など複数の反応を経てサイズの揃ったWCナノ粒子を製造することに成功した。次にWCナノ粒子を水素をプロトン化して正極に輸送する電解質膜に取り込んだ。
高分子電解質膜は充放電サイクルで乾燥/湿潤状態にさらされるため劣化が起こるが、WCナノ粒子があると水分子濃度を最適に保つことができる。またWCナノ粒子は高分子膜を損傷するフリーラジカルを補足する。このためWCナノ粒子を含ませた電解質膜は従来のものに比べて長寿命となる。
開発された低コストの触媒によって燃料電池(電解質膜)の劣化と低コスト化の課題が解決することでFCVや燃料電池による蓄電システムの普及が加速すると期待される。
開発された新技術は特許申請中だが、普及を狙うならトヨタに続いて公開するのでも良いだろう。EVとFCVのシェア競争は始まったばかりだがどちらが内燃機関(ICE)にとって変わるかは現時点で予想できない。イーロン・マスクの「FCVは馬鹿げている」とする批判や「EV100兆円市場」という掛け声に惑わされてはならない。燃料電池の技術の進歩でEVの先進性が時代遅れになる可能性があるからだ。
Credit: Nature Comm.