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福島第一事故の影響が動植物の生息に与える影響は事故後も各国の研究者の精力的な研究対象となっている。サウスカロライナ大学を中心とする研究グループが鳥類に与える影響の調査結果を発表した(J. Ornithology 156, Suppl. 1 297 (2015))。その結果、種によって差があるが、2011-2014年の調査期間中に増大したバックグラウンド放射線量の影響で個体数が減少している事実が明らかになった。
57種の鳥の個体数を3年間にわたって調査した結果、バックグラウンド放射線量は減少傾向にあるが個体数の減少はそのままであることもわかった。その中でもツバメの一種であるHirunndo rusticaは線量に強く依存して減少量が著しい。
また研究グループはツバメに注目して巣の放射線量を測定するなど個体数減少の原因を詳しく調べた。個々の細胞のDNA損傷を直接検出するコメットアッセイによって巣にいる間の放射線被曝によるとているが、同時に線量とDNA損傷の直接的な因果関係は見つからなかった。
ツバメの巣の放射線量は479-143,349Bq/kgで、外部の線量はと0.15-4.9mGyであった。この程度の放射線量はDNAに致命的な損傷を与える量ではないが、上限に近い放射線量の場合には個体数の減少が顕著になったとしている。若いツバメの個体数減少が多いことから、直接的なDNAへの放射線効果では説明できず、何らかの理由で出生率もしくは孵化率の低下によると結論した(Sci. Rep. 5 9432 (2015))。
論文(Sci. Rep. 5 9432 (2015))で著者らは直接的なDNAへの放射線効果では説明できないと明記している。サウスカロライナ大学の広報はそれでも明確な被曝による個体数減少が認められなかった理由を調査期間の放射線量の低下として、放射線による直接的なDNA損傷を意識している。
また福島事故をチェルノブイリと対比して、生体の放射線障害が長期間の被曝で生じる線量積分で時間差を持つと警告する。論文によるとツバメについては2011年の夏には個体数に変化が見られなかったが、年月を経るとともに線量は低下したが個体数の減少は増大した。
しかし放射線の効果が種に依存する中で、最も個体数変動が大きいツバメに関しての結果で全体を推測することは難しい。というのも避難地区では自然環境の変化が著しく副次的な環境影響による個体数変動と区別がしにくいためだ。
実際、日本野鳥の会が行なった2013-2014年の調査では日本国内におけるツバメの分布域はこの約30年では大きな変化はなく、分布域が縮小しているといった傾向はみられないとしている。個体数の現象を放射線効果と関連づけるには、一定量を捕獲して被曝線量計測をしなくてはならないが、この研究では巣の線量測定と個体数の調査のみである。今回の結果は放射線による直接的な効果でないことは明らかだ。環境に敏感なツバメへの放射線量以外の環境変化の方が大きいと考えられる。調査対象が少なく限定された調査結果に尾ひれがついて福島事故の影響を誇張する記事が最近増えていることも事実だ。根も葉もない放射線効果(被曝によるDNA損傷)の根拠となる情報を慎重に吟味することが必要になった。