Photo: korearms.egloos
北朝鮮の配備された弾道ミサイル群は、かつて近距離弾道ミサイルのスカッドB,C(射程300-500km)、ノドン(射程1,300km)、スカッドER(射程1,000km)、中距離弾道ミサイルのテポドン1(射程2,500km)、ムスダン(射程4,000km)が主力であった。しかし現在、近代化が急速に進行中で、世代交代の真っ只中にある。近代化の目的はこれらの弾道ミサイルを液体燃料型から移動式の固体燃料型へ変更し、最終的には長距離弾道ミサイルを実戦配備することである。
液体燃料型は発射準備中に赤外線探知で攻撃意図が明確になる。準備段階で探知すれば先制攻撃と認知できたが、固体燃料ではそれができない上に移動式のため場所を特定できない。
米国が警戒するKN-11とKN-15
米国が警戒するのは射程に米国東海岸とロシア、東欧、中東の大部分が含まれる長距離弾道ミサイルのテポドン2(射程6,700km)及びKN-08(ノドンC、射程6,700km)。KN-08は固体燃料式で移動ランチャー(TEL)に運搬され発射される。KN-08は2012年に軍事パレードで登場しているが、発射実験は行われていないため、開発段階にあると見られる。またさらに最近加わった新たな脅威が、潜水艦発射が可能な中距離弾道ミサイル北極星1号(KN-11)とその改良型である北極星2号(KN-15)。
KN-11は発射映像が公開されているが信頼できるものではなく、2017年に発射実験が行われている改良が進められたKN-15が実戦配備型と見られている。KN-11の射程は2,000kmとテポドン1と同等の中距離弾道ミサイルであるが、小型化で潜水艦発射が可能であることが脅威となる。
Credit: 38 North
北朝鮮は米国を刺激しないためか長距離弾道ミサイルに宇宙ロケットを思わせる名称を与えている。人工衛星打ち上げとして発射実験を行なった銀河3号(上図上段)は液体燃料式のテポドン2の改良型で、1段目のエンジンはノドンのものを4基まとめたクラスターで、弾道ミサイルとして使われた場合の射程は10,000kmに達し、米国本土が射程内に入る。しかし液体燃料式では先制攻撃が察知される。開発の目標は実戦用の固体燃料式の長距離射程化を目指したもので、銀河3号はそのために必要な(大気圏離脱と再突入など)技術習得と示威が背景にある。
固体燃料ロケット開発には高度の技術が必要
現在の大型ロケットエンジンは、液体燃料型もしくは固体燃料ロケット型である。液体燃料型の特徴は推進力が大きいことであるが、現在は複数エンジンのクラスター化で初段に必要な大推進力を得る方法が(開発コストと安全性の観点で)主流となっている。一方、固体燃料型も推進力を高めるために酸化剤を供給するハイブリッドロケットエンジンが使われる。その時に酸化剤を渦を作って固体燃料部分に導入するポートを複数有することで、均一な燃焼が実現できる。現在もっとも高度な固体燃料ロケット技術はこのような複数ポート型ハイブリッドエンジンである。
北朝鮮の技術がどの段階にあるかはっきりしていないが、固体燃料ロケットエンジンの開発にはこのほかにも、燃料の研究が不可欠で燃焼方式、酸化剤、燃料の各々について先端的な技術が必要となる。北朝鮮が独自に固体燃料ロケット開発を行えないとの西側専門家の予測に反して、現実に固体燃料ロケット開発が進められている事実は、高度な専門知識を持つ技術者の協力と必要物資の輸入がなくては成立しない。
KN-15についての情報は少ないが最新情報によれば、2017年4月5日に発射実験が行われたが失敗して落下した弾道ミサイルがKN-15だったとしている。KN-15の射程距離については北朝鮮は3,000-5,500kmと発表しているが西側の専門家は2,500kmと分析している。外観上は1960年代にソ連が開発した射程2,000-2,500kmのRT-15/RT-2Pと酷似していることが根拠となっているが、細かい部分の改良も見られる。北朝鮮の弾道ミサイル近代化にはロシア専門家の指導の素で行われていることを示唆するとともに、開発に必要な設備が細かく分けられて民生機器が輸入されて使われていることにも注視しなければならない。なお北朝鮮が2017年2月にKN-08改良型のKN-14(2015年軍事パレードで登場)の発射実験を行なっており、KN-15の開発が。急ピッチで進められていることが明らかになった。
一連の固体燃料ロケットエンジン開発には(ロシアを中心とする)国外の技術者が多数関わっている。また開発に輸入された国外の民生機器、精密電子機器が使われている。KN-15には600-650kgの核弾頭搭載能力があるので、核実験が不可欠な核弾頭の実戦配備を凍結し、人的、物的の両側面での制裁が課題となるだろう。