負の選択に遺伝子間相互作用が関与か

12.05.2017

Photo: medievalists

 

人間の遺伝子の中には潜在的には有害な多様体が含まれることが多いが、有害遺伝子変異が各個人に与える影響の詳細は不明であった。ヒトとショウジョウバエの遺伝子の機能喪失型変異(注1)を調べた最近の研究(Science 356 6337 539 ((2017))によると、劣勢遺伝子変異の個人差が統計的な予想より大きい。このことは遺伝子相互作用によって「選択」が生まれていることを示す。したがって遺伝子変異の「加成性」が成り立たない。すなわち負の選択)が遺伝子変異の総量ではなく、遺伝子間相互作用で決まることで多様性が保たれていることが明らかになった。

 

(注1)遺伝子もしくは遺伝子から転写される機能性RNAと転写体のmRNAから翻訳される蛋白質の活性が失われるような変異

 

 

負の選択

「負の選択」とは特定の細胞や個体を積極的に排除する仕組みをいう。反対は「正の選択」で、一方の細胞を負の選択でアポトーシスに追いやり、必要とされる細胞は正の選択で増殖する。このような正負の選択は例えば免疫細胞で特定のT細胞を選択するT細胞選択機構で重要な概念となる。

 

劣勢の対立遺伝子に対する遺伝子変異による「負の選択」は、人口変動の中で個体数変化に大きな影響を持つことが知られている。しかし「負の選択」が細胞の適合に独立に影響して個体数を減らすのか、複数の「負の選択」によるシナジー効果があるのかはこれまでよくわからなかった。

 

 

これらを判別するキーポイントとなるのは「負の選択」がシナジー効果を持つかどうかである。シナジー効果によるものなら、有害遺伝子の数にも変化が見られるはずである。この研究は8つの独立したヒト及びショウジョウバエのデータセットで機能喪失型変異対立遺伝子の分布頻度(注2)から、対立遺伝子に対する「負の選択」がシナジー効果をもつエピスタシス(注3)で特徴付けられると結論した。これによって高い遺伝子変異率を持ちながらヒトもショウジョウバエが、なぜ個体数を維持できるが説明される。

 

「選択」についての知見が蓄積することで進化や個体数の維持の過程が遺伝子学的に解明される日も遠くないかもしれない。遺伝子学が神の領域と呼ばれる所以だが、理解までは良いとしても実践して遺伝子的操作で進化を方向付けようとすることがあってはならない。

 

(注2)無作為で抽出された遺伝子プール(繁殖可能な個体群がもつ遺伝子の集合体)の対立遺伝子の割合。進化は遺伝的浮動と自然選択でこの比率が変化すること。ここでは自然選択がエピスタシスを持つ場合に予想される頻度分布の傾向を指す。遺伝的浮動は集団の遺伝子頻度が次世代に伝えられる繁殖過程で自然選択(自然淘汰)と無関係に(確率的な理由で)変化することを意味する。