高額紙幣の突然廃止でインド混乱

15.11.2016

Photo: RT

 

 インドのモディ首相は現在流通している高額紙幣の廃止を発表してから、市民の生活、経済活動に深刻な影響が広がっている。午後8時すぎに、テレビ演説で偽造紙幣、資金洗浄、課税逃れ目的で隠匿された現金をなくすためと説明した4時間後には、法定通貨として効力がなくなると突然通告したからである。

 

 廃止となった紙幣は、最高額の1000ルピー札と500ルピー札の2種類で、流通している全紙幣の86%を占める。政府は旧紙幣を年内に銀行口座に預金するか、新紙幣と交換しない限り、価値のない紙くずになると呼びかけたことで国民の間でパニックとなった。政府は現金以外の電子決済法を国民に進めている。

 

 インドは現金主義の社会で、支払いはほとんど現金で行われている。低所得者や農民の間では、銀行口座を持たない人の方が圧倒的に多い国である。

 国民は紙切れになる前にと銀行に押しかけた。インド全土から5日間で国内各地の銀行に集まった廃止紙幣の総額は約約2兆ルピー(約3.2兆円)にのぼった。

 

 

 インド政府は国民が銀行に殺到することを想定していたが、情報が明らかとなるのを阻止するために、銀行ATMの調整や台数の増加、対応に応じられる十分な新紙幣の発行などの対応策を行ってこなかった。その結果、交換できる紙幣がなくなり、ATMや銀行窓口がサービス停止、サービスが開始されても、交換可能額の制限や預金の引き出し制限が実施されるため、手持ちの現金が足らなくなる人が続出している。経済活動にも大きく影響し始めている。

 

 さらに、新デザインの500ルピー札はまだ発行されておらず、新たに発行された2000ルピー札はサイズが違うことで、既存のATMで取り扱うことができないことも混乱を招いている。約20万台の機器の調整がこれから必要となるが、終えるまでには数週間の時間を要する。

 

 

 流通している紙幣の86%を一度に廃止することで、インド政府は国民が保有する現金資産を把握することが可能となる。タンス預金を含め、富裕層の隠し資産(推定5,000億ドル以上、約52兆円)を明らかにするには最適な手段ともいえる。しかし、現金主義の文化、現金による賄賂が風習、現金主体の社会システムがある限り、問題を解決するのは難しいと思われる。