緊急時に備える食料備蓄を呼びかけるドイツ政府

24.08.2016

Photo: Umwelt Bundesamt

 

ドイツ政府は緊急事態に備えて国民に食料と水を備蓄するよう呼びかけた。冷戦後初めての国家的緊急事態に備えることに、国民に混乱が生じている。政府は新しい民間防衛計画で各家庭が緊急事態に外出しなくても10日間は自給できる食料と水の確保を要求している(フランクフルター・アルゲマイネ紙)。

 

政府の説明では冷戦時のようなドイツ国内への敵国の侵入はあり得ないが、国家安全保障に備えるため緊急時用の食料備蓄を個人レベルで調達し、政府支援ができるまでの時間をしのげるような体制を構築する。基準として水5日間分、一人当たり2リットルとして、10リットルとなる。

 

 

緊急時とは何か、外出できなくなる事態とは何か、国民の間に憶測が飛び交っている。最も可能性が高いのは昨年からのドイツへの100万人を超す移民による暴動によって治安出動した警察もしくは軍の外出禁止規制(戒厳令)である。ミュンヘンから始まった移民政策に抗議するデモはドイツ全土の波及しつつある。移民たちが暴動を起こさなくてもデモ隊と衝突したり、デモ隊と警察の間での小競り合いで大規模な暴動に発展する恐れは十分にある。

 

また最近クルド人武装勢力によって補給拠点を奪われ、劣勢に立たされたISが報復として欧米でのテロ活動をエスカレートさせる動きもある。ドイツ政府はこれまでも食料や医薬品の備蓄のほか、医師などに限定して優先的に民間人を保護する緊急対策を講じてきた。今回の措置は昨年12月にケルン市で起きた騒動と7月に起きた2件のISによるテロ事件を念頭においた治安維持方針の一環とみられている。

 

 

ロイターによればドイツ連邦刑事局が2016年の移民による犯罪は1-3月だけで69000件に達したことを公表した。29.2%が窃盗、28.3%が文書偽造などの軽犯罪、23%が暴行、強盗など重犯罪であった。移民による犯罪件数増加はISテロに加えてドイツ政府に危機感を与え、今回の自衛措置の義務化に踏み切らせたが、メルケル政権の移民政策には変化がみられない。

 

1968年に施行された有名なドイツ憲法の緊急事態条項は冷戦に備えるためでなく戦後ドイツを占領した連合国から独立するためといわれる。しかしその内容は極めて冷静に異常事態(敵国の侵入)に備えて、国の機能が保たれるように連邦政府が避難して閣議継続を始めとする行政機能を保全できるような細かい手順が決められた。

 

 

想定されるあらゆる危機的状況に備えておく用意周到さはいかにもドイツ国民らしいが、戦前のナチス独裁と戦争体験、戦後の連合国による占領を体験したことも大きい。今回のドイツ政府の判断は緊急事態が現実的な脅威と判断したととれる。