ボーイングの新型旅客機777Xで何が変わるか

25.10.2016

Photo: wired

 

ドリームライナー787の就航は遅れに遅れたうえにバッテリー騒動で足元を救われたボーイングだが、新型の777Xで名誉挽回を狙う。2020年に就航予定の777X787の設計を受け継ぎその特徴である燃費をさらに向上する。787と異なるのはエンジンを米国のGE9Xに一本化し、主翼を延長してライバル機より最大12%の燃費向上を実現する。777Xの登場で何が変わるのだろうか。

 

787に乗った人が驚くのは静粛性とともに湿度も制御する空調で、メルスデス・ベンツ社のいうClimate Controlだろう。一方で細かく観察すると主翼がしなやかに変形したり気圧差でキャビンが微妙に伸縮したりしていることに気づく。東レから供給される新素材がふんだんに使われているからだ。機体の軽量化はエンジンの燃費を左右する因子である。787のエンジンはロールスロイス社の傑作であるトレントの他に米国系のエンジンを選択できるが、前者では最近、タービンブレードの保護皮膜の厚みが不足して、タービンブレードを交換することになったのは記憶に新しい。

 

777Xの最大の特徴は主翼の長さが世界最大の71.8mとなることである。これによってグライダーのように機体の浮力が増して燃費が向上し航続距離が伸びるしかしそのままではハンガーに入らない。そこでボーイング社は艦載機のように主翼の先端を折りたためる構造にした(折りたたみ時の幅は64.8m)。これにより777Xは世界一大型で航続距離の長い双発機となる。現時点で最大長の旅客機は同社の747-8(3クラス座席数467)で76.3mだが777-9はそれより長くなる。派生機種は777-8777-9でそれぞれ座席数は375名、425名となる。

 

Source: AVIATION

 

ボーイング社の戦略は同社の長距離中型機777-300ERとエアバス380の中間にあるカテゴリの隙間をかつて新型747-8で獲得しようとしたが、GEエンジンのみで選択できないことと、双発機への移行の流れで世界的なシェアをとれなかった。その経験から787を大型化して燃費をさらに向上させた747-8並のキャパシテイを持つ旅客機を開発したのである。

 

787-8747の最終形態747-400と全く異なる新設計であったように、777X777とは別の設計によるものだ。エンジンは専用となりGE社のGE9Xが採用されたが、実は単独契約を前提として機体の開発費もGE社が分担するという協業の賜物である。ボーイング社の独占がエアバス社の登場で過去のものとなってから、新型機の開発を単独でできないほど経営状態が圧迫されている。

 

Source: LEEHAM

 

GE9Xエンジンや777Xにはカーボン樹脂の3Dプリントによる加工が取りいれられている。GE9Xのターボファンは直径が3.35mで世界最大となり、まるでターボプロップ機のようである。そのため世界一の燃費効率と静粛性を誇る。現在の受注はルフトハンザ、中東の御三家エアライン、キャセイ航空、ANAなどから306機となる。キャビンの窓は従来より大型化され天井が高くより快適な湿度と静粛性はより快適な長距離飛行を可能にする。

 

上図のように直行便による大陸間フライトが増えれば、カテゴリーギャップの隙間をつき航続距離の長い双発機は売れ筋となる可能性はある。しかし787同様、機体設計が複雑化し新素材が多用された製造は組み立てに時間がかかる。787での失敗が教訓にいかされているかどうかが鍵となるであろう。787に習って日本メーカー各社も分担製作のための設備投資を開始した。

 

Source: A350 XWB News

 

しかしそろそろエアラインとメーカーの採算性が最優先の機体設計から脱却したい。ライバルエアバス社のA350-1000はそこに目をつけた。上図のようにエコノミー席のシートサイズで777Xに差をつけようというのだ。エアラインの採算性と旅行の快適さ、さて顧客はどちらを選ぶのか。燃費が12%向上したのであればエアラインはその分を航空券の価格にマイナスサーチャージとして反映すべきなのだろう。その場合、価格をとるか座席の快適性をとるか、それは顧客に選ぶ権利がある。