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フランスの研究グループがこれまで困難とされてきた超薄膜磁気フイルムの磁気ドメインのナノイメージング技術を開発した。AFMのカンチレバー先端に取り付けたダイアモンドに発生する点欠陥を用いるこの手法で磁区の2Dイメージを観察したり、ドメインを移動させたりすることができる。
この技術によりレーストラック・スピントロニクスメモリーの開発研究が加速すると考えられている。スピンの向きが揃った磁区の大きさは10-100 nmでのスピン反転は磁区境界(磁壁)でゆるやかに生じている。磁壁の物質中の移動を決めるのはナノスケールのエネルギー障壁の2D分布である。
スピンントロニクスのひとつであるレーストラック・メモリーではナノワイヤーに沿った磁区の列がデジタルデータに対応する。レーストラック・メモリチップ(下のイメージ)は30nm幅で数ミクロン長のナノワイヤーは100GBの情報を書き込むことができる。そのようなデバイスでは磁壁の位置を正確に制御しなくてはならない。
Source: Nature Materials 2012 22, 372
フランスのENS Cachan、CNRS、パリ南大学の研究チームは磁壁のナノイメージング技術を開発し、ナノワイヤー中の移動する様子の観察に成功した。開発された手法はAFM技術とダイヤモンドでよく知られた窒素欠陥(NVセンター)を組み合わせる。点欠陥は隣り合う2個の炭素原子が1個の窒素原子と欠損に置き換わって生じ、磁気センサーとなる。
50nmのダイヤモンドをカンチレバー先端に取り付け、グリーンレーザーで励起するとダイヤモンドはNV欠陥で赤色に発光する。この発光強度は周囲の磁場によって変動するため、AFMスキャンによって磁気ナノイメージが得られる。研究チームはさらに別のレーザーで加熱することによって磁壁の位置の制御にも成功し、レーストラック・メモリー実用に弾みをつけた。
ダイアモンドのNVセンターを3Dメモリーに応用する試みもあり、ナノメモリー開発におけるダイヤモンドの価値が高まっている。なお工業的なダイヤモンド合成法は確立しており、コストの高いメモリーを心配する必要は無い。重要なポイントはこれまでダイヤモンドの品質を低めるとして邪魔者扱いされてきたNVセンターは、ナノ科学の世界では立派に活用されているという視点のユニークさにある。日本では研究対象としてNVセンターは時代遅れの存在だったが、そこに抜け道が隠されていたのである。