中国の打ち上げた宇宙実験室の先進性

21.09.2016

Photo: space.com

 

中国は20168月に世界初の量子暗号通信を打ち上げ、この分野で一気に世界の先端に躍り出た。今度は中国初の宇宙実験室を打ち上げたがそこで予定されている実験の中には(米国の後追いでない)独創的なものがあり、宇宙開発で存在感を示している。

 

現時点で世界で最も精度の高い時計は米国NISTが運用する原子時計(NIST-F2)より精度が高いCacsCold Atomic Clock)と呼ばれる原子時計を積んでいる(注1)。宇宙空間のCacs10億年に1秒の誤差という精度を持つ。ちなみにNIST-F2の精度は3億年で1秒の誤差である。宇宙空間に置かれる原子時計は世界初の試みである。

 

(注1)セシウム型Cacsよりも精度が高い世界最高精度の原子時計はドイツの研究所が開発したイッテルビウムを用いたもので、セシウム型の100倍の精度を持つが、実験的なレベルにあり実用時計としてはセシウム型原子時計が一般的である。

 

 

原子時計の原理は時計の基本周波数源に原子の振動を用いるもので、Cacsではレーザーを用いて原子(セシウム133)を冷却して原子振動を小さくして精度を上げるが、環境(温度、重力)の変動に影響を受ける。このため宇宙環境に置くことにより周囲の影響を小さくできるため精度が上がる。

 

中国の研究グループは原子時計を小型化し宇宙実験室に設置できるようにした。NIST-F2は付属設備を含めて一つの部屋に収まる大きさだが、開発された小型原子時計は車のトランンクに収まる程度だという。

 

 

Source: GPS for Land Surveyors

 

中国はこの原子時計でGPSの中国版となるナビゲーション衛星(上図)を更正し精度を上げる予定である。衛星によるナビゲーションシステムの精度が向上すれば軍事的、民生利用の両側面で精度の高い位置情報が提供されることになる。

 

 

欧州宇宙局(ESA)でも衛星で原子時計Paharaoを打ち上げる予定だが、今回の中国による宇宙実験室の原子時計に先を越された。米国は同様な計画を予算の問題で中止している。またPharaoは従来のセシウム型であるが、中国はより精度の高いルビジウムを用いる新しい設計となっている。どうやら中国の科学技術は宇宙開発分野では先進国の技術にキャッチアップを終えて、追い越しにかかっているようだ。