加速する太陽エネルギーから燃料をつくる研究

22.08.2016

Photo: abcnews.go.com

 

人工光合成は太陽エネルギーと酵素の触媒作用で水と空気中のCO2から酸素と糖を合成する。植物の利用している太陽エネルギーは1%にも満たないので、もし人工光合成ができたら減らそうと努力しているCO2を減らすことができる。より単純な電気エネルギーによる水分解では水素と酸素が得られるが、これも太陽ネルギーで行えば結果的にエネルギーを、燃料電池の燃料(水素)として蓄積できるので、両者の研究がさかんに行われてきた。

 

最近になりCO2削減がすべての国に課せられるようになったものの、現実には遅々として進まない。理由は環境保護より社会の至便性・快適性が優先されているためだ。しかし200910月にロンドンのインペリアルカレッジで開催された国際会議で、「植物のできることは人間がもっと効率的にやれるはずだ」という西欧流の挑戦的な発言が飛び出した。

 

 

背景にはエネルギー枯渇問題があった。植物は光合成で太陽エネルギーを炭素鎖化合物(糖)に変換するが、そのエネルギー変換効率は非常に低いので、なんとか高効率の人工光合成ができないかと考えるのは自然な流れである。光合成で太陽エネルギーを化石燃料に変わる人工燃料に変えて蓄えることができれば、人類は事実上無限のエネルギー源を手にすることになる。つまりCO2を減らして酸素をつくるという環境清掃作用だけでなく、エネルギー源の開発の側面を持つのである。

 

実際に人工光合成を行うには水分子から水素と酸素に分解するプロセスとCO2を取り込んで最初のプロセスでできた水素で還元し、有機物に変換するプロセスを行うふたつが歯車のように噛み合って進んでいく必要がある。

 

 

最近、エネルギー枯渇の恐れからこれらの後者、CO2を取り込んで炭素鎖をつくりだす機能が注目されることとなった。イリノイ大学の研究チームはWSe2とCoのナノ構造電極を用いてCO2の取り込み(CO製造)のエネルギー変換効率24%を達成した。工業的な採算性は15%以上が必要で国内でもNEDOプロジェクトで開発研究が進められていたが1%以下の効率だった。

 

水分解においてはPSIIと呼ばれるマンガンを含む光合成触媒分子が、水分子から太陽エネルギーで電子を引き抜いてプロトンができる。この分野の第一人者であるMITのノセラ教授は機能的にはPSIIに似ているがより単純な構造を持つコバルト触媒でもpHによっては同様な機能を持ち、水分解が行えることを示した。ノセア教授によればこの触媒は汚染された河川の水でも機能するため、発展途上国でも使えるという。また実験室規模で性能のでている触媒をスケールアップして実用化することが重要であると主張する。カルテックバークレイNRELMITの研究チームが精力的に人口葉の研究開発に取り組んでいる。

 

スケールアップ技術の開発にバークレイ研究所からベンチャー企業Heliosが設立され、シリコン基板に固定された複核触媒で多電子酸化還元反応が研究されている。クロム酸化物触媒が有望とされ実用化(スケールアップ)の一歩手前まで来ている。

 

 

 

実用化にはポーラスシリコンのような多孔質材料の開発も必要となる。スイスローザンヌのエコールポリテクの研究グループは日本の藤島・本田が1972年にみつけたチタン酸化物光触媒をより安価なヘマタイトに置き換える研究を行っている。これまでの研究で最高効率はコバルト修飾の鉄酸化物(Fe3O4)のナノ構造物質である。