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MOF(Metal Organic Framework)という新しい金属有機複合体が注目を集めている。ナノ物質の多くがサイズを極限まで小さくして量子力学的な性質をもたせたものであったが、MOF(注1)は個々の金属に適した有機フレームを設計することにより、触媒機能、特定ガス吸着、センサー特性などの機能性を持つ多孔質機能材料を創出することができる。
(注1)Kitaura, R., Onoyama, G., Sakamoto, H., Matsuda, R., Noro, S.- I. & Kitagawa, S. Crystal engineering: immobilization of a metallo Schiff base into a microporous coordination polymer. Angew. Chem. Int. Ed. 43, 2684–2687 (2004).
テネシー大学の研究グループが開発したMOFはアセチレンとエチレンを分離する機能を有している。化学産業の重要なプロセスであるアセチレンやエチレンを分離するにはアセチレンをPd触媒を用いて水素化してエチレンとし分解された炭素鎖を溶媒で抽出することが一般的であった。
アセチレン、エチレンに対する吸着分離特性に優れたMOFによって高温環境や高価なPd触媒を使わずに、低温で特定のガス分離抽出が行える。MOFは多孔質の穴のサイズを目的とした分子のサイズに最適にすることによって高い選択性をもたせたオーダーメード多孔質材料ということができる。開発されたMOFはZn3(BDC)3[Cu(SalPyen)]·(G)、Zn3(BDC)3[Cu(SalPycy)]·(G)x (Gはガス分子)と表現できるZnとCu金属を含むフレームでBDC、SalPyen、SalPycyは有機分子である。
Source: Nature Communications
研究グループはBDC(1,4-benzenedicarboxylate)をCDC(1,4-cyclohexanedicarboxylate)に変えるだけでアセチレン、エチレン選択性を飛躍的に増大させることに成功した。構造的には有機金属決勝の金属を分子で置き換えたものになっている。この構造には分子サイズの隙間が多数あり、適当なサイズの分子のみが吸着されるため高い選択性が得られる。
金属を分子で置き換えるための分子設計は分子軌道法で簡単に行えるため、目的の分子を決めれば候補となるMOFは多くが存在し、それらの候補から目的に最適なナノ多孔質有機金属を合成することで、幅広い応用が可能となる。
ナノ科学はサイズに依存した機能探求のフェーズから目的の機能を創出するフェーズに入った。今後のMOF活用に注目が集まっている。