期待が高まるHIV新治療法

06.10.2016

Credit:  NIAID/Flickr Commons

 

英国のHIV患者が受けた新治療法によって奇跡的な回復を遂げたことで、ウイルス根絶が現実となる日が近いかも知れない。44歳のHIV患者は英国の大学からの50名からなる選抜研究チームの開発した試験段階にある新治療法を受けた結果、順調に回復した。HIVウイルスを根絶して完治できる抜本的な治療法となると期待されている。

 

 

英国の選抜研究チームで治療法を開発

研究チームによれば、治療後の患者の血液からHIVウイルスは検出されなかった。この結果は患者のHIVウイルスを根絶し完全に治癒できた初めてのケースだという。治療法の開発はまだ始まったばかりであるが、今回の成功はその威力を示すものでHIV治療の画期的な進展とみられる。(Sunday Times紙)

 

新治療法ではHIVウイルスに2段階の攻撃を行う。現在主流のレトロウイルス治療法では、ヒト免疫細胞のT-細胞にウイルスが隠れてしまうので、根絶が難しかった。HIVウイルスはT細胞に守られて正常細胞を破壊していくと同時に自己を複製して増え続けるため、治療法を無力化してしまう。

 

 

治療法はウイルスをT細胞からおびき出して殺す2段階攻撃を特徴とする。実際にはVorinostatと呼ばれる薬(Nature 487, 482–485 (26 July 2012))がウイルスの潜んだT細胞を探し出して、細胞増殖をさせて標的とし、休止していたT細胞で攻撃する。

 

Vorinostatは比較的低分子量(C14 H20 N2 O3)の新薬でまだ実験段階にある。薬品メーカーであるメルク社から販売されている。

 

 

Source: UNC 

 

 

研究チームによれば新治療法は実験室レベルでは成果がはっきりしており、今回の試験的治療の成功により実証できたが、一般の治療法として確立するにはまだ時間がかかるとしている。道のりは長く新治療法はによってウイルスを駆逐する抜本的治療法への道が開かれつつある。

 

 

 研究チームには選び抜かれた英国を代表する研究者50名が参加している。専門分野を横断する研究プロジェクトの成果となる。先進国では一様に個人研究から効率の良いプロジェクト研究を重要視する傾向が強まっている。目的がはっきりした今回のケースのようにHIVやエボラ出血熱、ジカ熱のような複雑な感染症の治療法の開発には効果がある。