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今回の粛清は、「砂漠のダボス会議」とも呼ばれるFuture Investment Initiative (未来投資イニシアチブ)の開催直後、Startup Saudi Arabiaの国際会議の開催中で起きた。世界中から投資家、政治家、実業家、政府高官、サウジアラビアからも王族、大臣、政府高官、有力投資家や実業家が首都リヤドに集結していた。一度に粛清を実行するには最高のタイミングであったともいえる。
粛清の意図とは
サウジ当局によると、11日時点に約500人が拘束され、1000人以上が事情聴取を受けている。拘束の理由には、横領、資金洗浄、贈賄、脅迫、公務色を個人の利益に利用、自身の企業への発注、不正会計などで不当に富を得るために国益より自身の利益を優先させ、権力を悪用したことがあげられている。しかし、拘束対象者のリストを見ればその他にも、これまでテロ組織への支援、クリントン財団に多額な寄付金を提供してきたなど、ブッシュ家やクリントン氏と深い関係にあるサウジ権力基盤の実力者たちやムハンマド・ビン・ナエフ前皇太子を支持する王族や高官が含まれている。
バンダル・ビン・スルターン王子
拘束された有力者には、前駐米サウジアラビア大使、国家安全保障会議事務局長、国王特使などを務めた王族サウード家の一員であるバンダル・ビン・スルターン王子が含まれている。イラン・コントラ事件(米国はイランへの武器売却資金をニカラグラ反共ゲリラのコントラへ提供)でコントラへ資金支援、9・11では実行犯への資金支援、イラク戦争やシリアのアサド政権の転覆ではテロ組織のISISやアルカイーダを支援してきた。
バンダル・ビン・スルターン王子はブッシュ家とは深い親交があり、「バンダル・ブッシュ」とも呼ばれた。2004年には、英ブリティッシュ・エアロスペース(BAE)を巡る武器購入で贈賄(Al- Yamamah武器取引事件)を受け取ったことが判明、捜査を受けるが、2006年には当時のブレア首相により捜査が打ち切られる。
アルワリード・ビン・タラール王子
王家サウード家の一員で、「中東のウォーレン・バフェット」と呼ばれている投資家、実業家のアルワリード・ビン・タラール王子はアラブ世界では一番の資産家、世界長者番付50位で、総資産は190億ドルである。Citigroup, Apple, Twitter, News Corp, 21st Century Foxを含む多数の企業の大株主である。クリントン氏が国務長官在任中の時からクリントン財団へ寄付金を送り、2016年大統領選ではクリントン氏への支持を表明した。
2015年に共和党候補を表明したトランプ氏に、「あなたは共和党だけでなくアメリカの恥、勝利はあり得ないから大統領選から撤退しろ」と敵対感情を顕にしたことで有名となった。なおタラール王子はムハンマド皇太子の王位継承を不支持である。
バクル・ビンラーディン氏
サウディ・ビンラディン・グループ会長でテロ組織アルカイーダのオサマ・ビンラーディンの兄弟であるバクル・ビンラーディン氏も拘束されている。イスラム教聖地のメッカを含め多くの建設プロジェクトに関わっている大手建設会社を経営していた。ブッシュ家とは関係が深く、2001年9・11同時多発テロ事件の当日に、ブッシュ元大統領は米国に滞在中のビンラーディン一家を機密に国外に逃亡させたことが知られている。横領、贈賄、不正な工事費請求、不正入札などの汚職の疑いがある。
死亡した2人の王子
5日には、マンスール・ビン・ムクリン王子(Asir州の副知事、前皇太子の息子)と7人のサウジ高官が乗っていたヘリコプターがイエメンとの国境沿で逃亡の際に撃ち落とされ墜落、全員が死亡した。ムクリン王子はムハンマド皇太子の王位継承に反対、王族の間で支持しないよう説得に動いていた。
アブドル・アジズ・ビン・ファハド王子
アブドル・アジズ・ビン・ファハド王子(レバノンのハリリ前首相の親友で、7月に倒産したハリリ家が経営する建設会社の大株主)はサウジ治安部隊に拘束されるのを抵抗、銃撃戦の末に6日に死亡する。ファハド王子は第5代サウジアラビア国王のファハド国王の次男であった。
こうしてみると今回の粛清は単にサウジアラビアの汚職取り締まりではなく、将来計画を実行するのに必要不可欠な王位継承の安定化が狙いだったと言える。
Part 3に続く
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