Photo: aawsat
11月に始まったサウジアラビアの汚職対策委員会による前代未聞の粛清で、王族、現役閣僚、官僚や実業者を含む300人以上の要人が拘束された。全員サウジアラビアでは「特権階級」に属している。その後、法廷闘争を控える数人を除いて、拘束された要人の大半は和解で解放に向かっているとされる。
サウジアラビア検察当局によると、粛清では320人が汚職などの容疑で拘束されたが、和解により12月5日時点では159人が拘束されている。拘束と並行して一時、2000以上の個人や企業の銀行口座が凍結されたが、その数も376にまで下がっている。
拘束から解放されたほとんどは、起訴の取り下げ、王国からの特赦を受ける代わりに金銭的な和解に応じている。なかでも、ムタイブ・ビン・アブドゥッラー王子は10億ドルの和解金を支払ったことが報じられている。拘束された世界的に有名な大富豪のなかには、ワリード・ビン・タラール王子(フォーブス世界番付では50番目の富豪)、エチオピア出身のモハメッド・アル・アムディ氏(世界では77番目)、イスラム金融界の有力者シェイク・サレー・アブドラ・カメル氏、とサウジアラビア最大の小売、流通グループ経営のファワズ・アルホケイル氏が含まれているが、和解金の支払いに応じたか又は解放されたかは不明である。
未だに拘束されている159人は、事情聴取が続いている、和解交渉中か容疑を否認して裁判闘争となっているかのいずれかとされている。
サウジアラビア政府は和解金として約500-1000億ドルの資金を得たとされ、その資金はサウジアラビアの今後の社会・経済改革プロジェクトの「ビジョン2030」の投資資金として使われる見込みである。今回の粛清は、石油黄金時代に汚職に関わって、富を築いた王族、閣僚、官僚、起業家や個人から得た資金を石油依存からの脱出と社会・経済の近代化に再投資することが目的と思われる。
原油価格の下落の結果、 サウジアラビアの財政赤字は2016年には790億ドルまで膨れ上がった。財政赤字の拡大を阻止するために外貨準備が使われ、過去3年間で30%以上減少した。その危機的な財政状況のなかで、行われた「特権階級」への粛清は一般国民に支持されているが、外国投資先としての政治・経済リスクが高まる状況にある。資金繰りに汚職容疑の和解金が使われたとしてもビジョン2030の課題が多いことに変わりはない。
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