ポーランドへの制裁で揺らぐEU求心力

19.12.2017

Photo: euronews

 

 欧州委員会はポーランドに対し、司法の独立性を制限する改正法案の可決とEUの移民受け入れ分担制に応じないことで、 EU条約第7条を早くて20日に発動するとみられる。EU加盟国に第7条が発動されるのは前例がなく、欧州理事会での議決権停止に加え、EUからの経済支援や国際貿易が停止される。

 

 EU条約第2条では、EUが尊重する法の支配の原則に違反した場合、加盟国に是正を求める勧告がだされ、それでも従わない場合、欧州理事会での議決権停止など重い制裁が科される第7条が発動される。ポーランド政府の行為はEUへの「脅威」と見なされ、第7条の発動はEUの政策統一を強く求めるドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領が支持している。

 

 

東欧新興国との対立

 EU加盟国の中では、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ルーマニアの5カ国はこれまでEUの移民受け入れ分担制に反対してきた。2015年に始めた4万人の移民・難民受け入れを加盟国の間の分担する政策は、その後一度限りの12万人の受け入れとなり、最近では上限や期限の無い移民・難民政策を進めている。キリスト教が主流となっている東欧新興国では、イスラム教移民・難民の社会への影響を懸念してこれまで移民受け入れ分担制に反対してきた。政権だけでなく、圧倒的な国民の支持があり、主権国家を尊重しないEU制度に反発が高まっている。

 

EU条約第7条は発動可能か

 第7条を発動するには、貿易条約、制裁やEU条約を巡る改正などと同じように、28加盟国の全会一致の合意が必要である。既に、ハンガリーのオルバーン首相はポーランドへの支持を表明、第7条を発動することはできない状況にあるが、チェコ、スロバニア、ルーマニアも支持を表明する可能性が高い。

 

 

EU内の経済制裁

 欧州委員会は第7条の発動以外に、ポーランドへの経済制裁を検討している。ポーランドは2022年までの間にEUから2,700億ドルの経済支援を受ける予定となっている。新空港の建設や下水工事などインフラ整備目的の公共事業に使われている経済支援の大幅縮小がフランスや北欧諸国から提案された。

 

 EU内の経済制裁は旧東欧諸国のEU求心力に影を落としている。EUを牽引してきたドイツはメルケル新政権の樹立に困難が続いている。ドイツの政治力の弱体化でますます、EUの分裂の兆候が表面化している。

 

 

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