大統領の核攻撃権と国家緊急事態の長期継続

17.11.2017

Credit: The US National Archives

 

 2001年の9.11同時多発テロ事件の3日後、当時のブッシュ大統領は「国家緊急事態」を宣言した。ブッシュ政権の8年間続いた後、オバマ大統領も「国家緊急事態」を毎年更新、政権期間中の8年間継続した。現在までアメリカは、テロ脅威から「国家緊急事態」下にあることはあまり知られていない。

 

 一方、米上院外交委員会(Senate Foreign Relations Committee)は11月14日、核攻撃を開始する大統領権限の制限について公聴会を開催したが、憲法の定める大統領権限を確認するにとどまった(AFP)。米国が核攻撃を受けるか、攻撃が差し迫った場合には、合衆国憲法に基づき大統領には国を守る完全な権限がある。

 

 冷戦時の全面戦争シナリオでは突然のソ蓮の核ミサイルの同時攻撃を北米レーダーが感知するところから始まる。大統領は核攻撃の知らせを受けると直ちに報復処置として戦略空軍による核攻撃(ミサイル・爆撃機)の開始を支持する。1955年以降、海軍の潜水艦SLBM配備が精力的に行われ、現在のミサイル数ではポラリスIII(SLBM)が空軍のICBMを圧倒する。サイロに固定されたICBMが先制攻撃に脆弱であるためである。一方、ロシアはICBMを移動式であるため核攻撃の主力はICBMである。

 

 大統領が核攻撃を指令するとサイロや原子力潜水艦に暗号が届き、交代で常時待機の担当将校2名が、暗号解読表の入ったボックスの鍵を同時に開けて、攻撃目標を設定しミサイル発射となる。冷戦以来初めて空中待機に入った戦略空軍B-52爆撃機も攻撃指令を空中で受けて、攻撃地点を設定し爆撃に向かう。しかし冷戦以後、全面戦争のシナリオは現実性が乏しくなったが、北朝鮮の核実験とミサイル実験で米国への先制核攻撃のリスクも考慮せざるを得なくなった。

 

 また大統領の決断が難しい局面(地域紛争に複数国家が関与するケースや代理戦争など)が現実化するリスクが高まったため、それらを定義してある種のガイドラインを定めておこうというのが公聴会の狙いである。

 

国家緊急事態での大統領の権限

 国家緊急事態では、大統領の権限は司法の制限や議会の承認を必要しない、圧倒的権限を持つことになる。大統領令で土地を押収、生産手段の統制、商品の押収、海外に軍を派遣、戒厳を宣言、交通と通信の統制、民間企業の統制、移動の制限、市民の生活の統制を実施することができる。

 

 なかでも、米軍に関わる権限として州兵を連邦任務のため動員することができるとされる。州兵は国家安全保障上の緊急事態で動員され、海外での戦闘作戦に参加してきた。また国内では、暴動鎮圧や災害救助な土の任務を果たす。つまり米軍の規模は州兵を含むことで拡大することができることになる。

 

 2016年9月の時点で、海外派遣されている州兵、主に中東に派遣されているのは16,345人である。また軍事予算の増強、配分を決める、米軍の指揮官の交代を遂行することができる。

 

 ブッシュ大統領が国家緊急事態下で発令した大統領令は54令である。現在、国民に公表されているのは全体の3分の1で、アメリカ政府の国家安全保障の政策や各政府機関の任務に関する方針は議会と共にアメリカ国民にいまだに公表されていない。9/11以降、米国民は憲法で守られていない状態が続いている。言い換えれば2001年から16年間も米国は緊急事態にあり、大統領の判断に国民の安全保障が委ねられているのである。