WTO閣僚会議の合意なき閉会

14.12.2017

Photo: wto.org

 

 2年おきに各国の貿易担当閣僚は会合(WTO閣僚会議)を開催し、貿易不均衡や自由貿易の障壁撤廃について協議する。この結果に基づいてWTO執行部の方針が決定されるので、閣僚会議は実質的なWTO執行部代行の会議といっても良い。1996年から11回目となる今回の閣僚会議はアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されていたが、全く合意がないまま13日の閉幕を迎えた。

 

 異例の合意なきWTO閣僚会議の閉会はメデイアがWTO時代の終焉と伝えるほど衝撃的なものであった。2013年のバリ閣僚会議でも食料輸入の安全性に関する交渉が長引き合意なき閉幕を迎えようとしていたが、直前に合意がなされたが、今回はそうならなかった。国連貿易開発会議は煩雑な貿易事務が自由貿易の障害となっていると指摘している。先進国はそのため税関と各国の規則の調整を目指す貿易円滑化協定(TFA)を締結を希望している。

 

後進国を代表する大国インド

TFAの見返りとして先進国はインド、中国を含む開発途上国の食料備蓄を妨げないとしているが、例えば食料調達の補助金の総額が基準年の生産量の10%に抑えるWTOの備蓄食料安全性の基準に抵触する。つまり各国の食料備蓄は自由でなくWTO の規制を受けている。WTO規制の理由は大規模な一国の食料備蓄が流通価格に影響を与えないためとされる。

 

 しかし人口が減少傾向にある先進国と人口の増加が続くインドな開発途上国では事情が異なる。実際インドでは食料を増産し備蓄をふやさないと飢餓で死者が出る恐れがあり、最近、人口の2/3に食料が行き渡ることを食糧法で定めた。今回の閣僚会議ではインドはWTOが人権問題など貿易以外の分野の議題を取り上げることを拒否し、先進国が食糧危機が厳しくなっているにも関わらず2年前と同じ要求の合意を取り付けようとしていると非難し、後進国側の切実な要求を突きつけた。

 

鮮明になったWTOの限界

 インドはバリ会議で危機にある後進国に2年毎でなく時限なしの食料規制緩和を求めたが、今回の会議で米国はそれを先送りにしたことを批判している。インドのこうした強気な態度をアフリカ諸国と中国が支持したため、閣僚会議は合意がないまま閉会せざるを得なかった。これまでグローバリゼーションの陰に隠れていた先進国と後進国の本質的な利益相反が食料問題という切羽詰まった問題で顕著化し、合意なきWTO閣僚会議閉幕となった。

 

 トランプ政権の保護主義貿易色が合意を妨げたとするメデイア報道が多いが、実際にはWTOを枠組みとしてグローバリゼーションを強引に推し進める先進国と後進国の亀裂が高まった結果と考えるべきなのである。