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抗生物質はこれまで生体の免疫細胞と協調して感染を防御する働きを持つと考えられてきた。全ての薬物は副作用を持ち抗生物質も例外ではない。抗生物質が生物にとって役立つ良性の細菌も殺傷したり免疫細胞の生理機能を変化させてしまう場合がある。また抗生物質耐性を持つ細菌が増えたことが脅威となりつつある。
ハーバード大学の研究グループは最新の研究で、マウスに投与された抗生物質の効果を調べ、抗生物質が免疫細胞の細菌殺傷能力を阻害する場合があることを見出した。(Yang et al., Cell Host & Microbe online Nov. 30, 2017)。
研究グループはこれまでいくつかの抗生物質がミトコンドリアやヒトの上皮細胞を損傷すること、および細胞から放出される代謝の中間生成物メタボライト(下図参照)と呼ばれる分子が細菌の抗生物質耐性に影響を与えることを見出していた。
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研究グループはさらに抗生物質治療が細菌感染の対応能力(免疫)に調節影響を与える可能性を考え、大腸菌に感染したマウスに治療に用いられるシプロフカシンを人間の治療と同程度の低濃度で投与した。その結果、抗生物質投与で代謝系に系統的な変化が起きてマウスの細胞も変化を受けることが明らかになった。
さらに大腸菌に感染したマウスのメタボライトのシプロフカシン耐性が強められ、シプロフロキサシンで処理されたマクロファージは、大腸菌を殺傷する能力が低かったことから直接、免疫機能が損なわれることがわかった。
抗生物質が生体(免疫細胞)に及ぼす効果の理解が進めば、抗生物質治療を体質に適合させて、免疫機能を損ねないようにすることもできると期待されている。中国では養鶏場の抗生物質汚染が周辺に住む人間にも影響を与えて社会問題化している。抗生物質の治療、投与には最新の注意が必要になったが、その副作用の理解はまだ始まったばかりである。