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クリーンエネルギーの一翼を担う燃料電池の燃料として水素は天然ガス(メタン)の水蒸気改質法に代わる新製造技術が模索されている。太陽エネルギーと触媒を用いる水分解反応は環境保全の点で理想的な水素製造法であるため、そのエネルギー効率を高める触媒開発が精力的に行われている。アルゴンヌ国立研究所の研究グループは最新の研究で、高性能の水分解触媒を開発した(Kim et al., Nature Comm. 8:1449, 2017)。
研究グループはIrとOsの合金Ir25Os75をつくり片方の成分元素を取り除く脱合金という手法で電気化学反応触媒の3要素(活性、安定性、導電性)の最適化が行えることを見出した。これまでの触媒では活性の高い触媒ほど触媒毒によって活性が低下する。活性と安定性は相反する要素で両立は困難であった。
研究グループは隕石中に含まれる金属Irの触媒活性に注目し、周期律表で隣に位置するOsとの合金Ir25Os75を作成した。金属Irは触媒活性が高いことは知られていた。しかし電解質によって酸化されると表面から放出され触媒機能が不活性化される。そこで原子半径が似ているが、不活性な元素Osと合金化して安定化した。一旦合金化させたあとでOsを抜き取る脱合金化処理を行うと、残された金属Osはそれ自身ではつくり得ないナノポーラス薄膜構造(dtf)に再配列する。
さない実際の反応環境ではナノポーラス構造は伝導性の悪いIr酸化物のシェルが伝導性の高いIrコアを保護するコアシェル構造をつくる。そのため電子の伝導性と触媒活性、安定性という3要素が満足される理想的な水分解触媒が生まれた。この触媒は従来のIr酸化物触媒より約30倍安定化され、脱合金化ナノ粒子触媒より約8倍高い伝導性を有する(下図a、c)。bのXPSスペクトルはIrが酸化状態で存在することを示している。cは脱合金ナノポーラス薄膜構造(dtf)の活性度。
Credit: Nature Comm.
この研究では脱合金処理によるナノポーラス構造が触媒活性、安定性、伝導度の3要素をバランスさせれば理想的な触媒が得られることを実証している。これまで水素社会のネックは水素製造と輸送にあった。イーロン・マスクがトヨタのFCVを「馬鹿げている」と批判するように、世の中には誤解が多い。しかし水素を分解しやすい化合物として輸送することは可能で、批判は筋違いである。水素を太陽エネルギーで水分解する広義の光合成が確実な発展を遂げている。この事実を批判することこそ馬鹿げている。