HIV-1の最後の未決定蛋白が構造決定される

21.10.2017

Photo: careforaids

 

アラバマ大学の研究チームはAIDSを発症させる逆転写酵素を持つRNAウイルス(レトロウイルス)のHIV-1の未決定構造を決定した(Murphy et al., Structure, 2017HIVウイルス粒子は外側を構成するエンベロープにあるgp41蛋白の三量体からなるスパイクが突き出していて標的細胞に侵入する。今回決定されたのはHIVウイルスがヒトに感染して増殖するメカニズム解明に不可欠な蛋白gp41の細胞質尾部の構造である。

 

 

Credit: Jamil Saad

 

エンベロープ蛋白の取り込みを防げればウイルスの複写が阻害できるため、ウイルスを無力化できる。感染の因子となるのは細胞質尾部で構造決定が非常に困難で多くの研究グループが構造決定に失敗していた。問題のひとつは大腸菌内でこの蛋白が培養できないことである。培養時間を2時間以内に限定しても70%が失われた。

 

研究グループは100以上の培養条件を試み、2年かけて2時間を2日に延長した。一部の構造決定はNMRで溶液中で行われたが、他は水溶性ではないためミセル溶液を用いて分散させた試料を用いて、NMRで解析した。

 

部分的に決定した構造と全体が保存された構造に矛盾がないgp41蛋白細胞質尾部の構造が決定された。研究グループは45個のアミノ酸残基を測定し、gp41細胞質尾部のN末端が通常の2次構造で生体膜(注1)に結合せずHIV-1ウイルス粒子を包み込んでいることを発見した。これとは別に105個のアミノ酸残基の測定からC末端細胞質尾部が生体膜と3個のαヘリックスと結びついていることもわかった。

 

(注1)生体膜の一部である酸性リン脂質の多くが蛋白質と膜との結合を直接仲介する因子として重要 な役割を果たしている。

 

この研究によって細胞質尾部が細胞膜と細胞膜直下の2,000個のHIV-1 Gag蛋白質(注2)と結びつく過程が明らかになった。HIV-1ウイルスの感染のメカニズムの理解が加速すると期待されている。

 

(注2レトロウイルスの粒子形成はいくつかの構造的ドメイン を含む Gag タンパク質(ウイルス構造蛋白質)の発現により起こる。