Photo: insidebitcoins
絶対に破られることがないとされてきたビットコインなどの仮想通貨(暗号通貨)が近い将来、量子計算機の攻撃に対する脆弱性が指摘されている。マクアリー大学の耐量子通貨(Quantum Resistant Coin)と呼ぶ研究者グループは、現在の1.5兆ドルにのぼる仮想通貨市場のリスクを明らかにした(Aggawal et al., arXiv.1710.10377v1)。
研究によるとビットコインを含む仮想通貨の量子計算機の攻撃に対する脆弱性は10年以内に無視できなくなるとしている。現在の「マイニング」とは高性能計算機を使い有志が仮想通貨の記録作業をシェアし、その対価として少額の報酬を受けるというものだったが、将来現れるハッカーは量子計算機を武器に証拠を残すことなく仮想通貨システムに侵入して、盗みを働くというもので、現時点では起こり得ないとされている不正で仮想通貨の価値自体に大きな影響をもたらす犯罪行為である。
なお論文は査読前のロスアラモス国立研究所の物理系論文原稿サーバーarXiv.に投稿されたものである。
研究によればビットコインなど仮想通貨取引の根幹となる認証アルゴリズム、”Proof of Work”(注1)と呼ばれるプロトコル(下図)の安全性も脅かされる。
Credit: tech.eu
全米で仮想通貨Hcash、Hshare(注2)を通じて3億ドル規模市場を動かすブロックチェーン大手企業のHyperchain Capital(注3)もこの研究グループを顧問に迎えて対策を立てるとしている。
(注1)世界中に分散する「マイニング」の高性能計算機資産を使い認証に用いるアルゴリズム。
(注2)Hshareは2017年に公開された仮想通貨で、2018年には同じ開発者によるHcash公開でこれに統合される予定。
(注3)ブロックチェーン導入企業、プロジェクトへのコンサルタント事業も手掛ける世界初のデジタル通貨ヘッジファンド。
量子計算機の進展は著しい。グーグルの計算機のほかIBMは量子計算機サーバーをオンライン公開運用し、市販の量子計算機(d-wave)も登場している現在、10年以内でさらに普及が進めば、犯罪者の手に渡るリスクは無視できない。
IBMの開発した量子計算機もグーグル同様、超伝導素子を用いた5qubit回路で、将来的には50-100qbitの回路を開発する予定。公開された5qubitの量子計算機システムは使い易いフロントエンドを持ち、ユーザーが容易にプログラミングできる。
量子計算オンラインサービスにより量子計算機の優位な分野が増えればより大規模な50-100qubitクラスの計算機が開発され、量子計算アルゴリズムがオープンソース開発で普及は目前である。仮想通貨が恐れるのは量子計算アルゴリズムが悪用されて認証機能が損なわれると同時に、仮想通貨が盗まれることである。日本でも量子科学技術は一般社会へのインパクトの大きさから、2016年1月の閣議決定、第5期科学技術基本計画で、日本の目指すべき社会として量子科学に基盤を置いた「超スマート社会(Society5.0)」が提起されている。
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