Photo: popmintchev.ucsd
アト秒スケールの短パルスX線を用いると化学反応中の電子の移動を動画のように観察できる。欧州の基礎科学拠点のひとつであるETHチューリッヒの研究グループは43アト(10-18)秒という世界最短の軟X線レーザーパルス発生に成功した。
分子回転の速度領域は10-12秒、振動は10-15秒だが電子移動は10-18秒の時間領域にある。ETH研究グループは赤外レーザーとキャリアエンベロープ位相制御(注1)を用いて、リンや硫黄の内殻準位を励起させることができる波長領域の世界最短となる軟X線レーザーパルスを発生させた(Gaomnitz et al., OSA Publishing 25, 27506, 2017)。
(注1)極短光パルス中で電界振動の位相制御。光パルスで高速に振動する光電界の制御技術。
研究グループはVTGPAと呼ばれるアルゴリズム(下図)を用い、重なった光電子スペクトルに適用できるように一般化して、アト秒パルスに応用した。この手法でこれまでの手法でのアト秒パルス再構築の難点を解決した。100eVエネルギー幅で最大エネルギー180eVの赤外レーザーパルスに適用し、43アト秒軟X線レーザーパルスが得られた。
Credit: researchgate
アト秒レーザー科学は近年、世界各国で精力的に研究されており日本でも2013年に理化学研究所が、世界最高出力(2.6GW)のアト秒軟X線レーザーパルスの発生に成功しているが、パルス幅は500アト秒であった。これまでの世界最短レーザーパルス幅は80アト秒であった。研究グループの開発した手法でリンからシリコンの内殻(L)準位をカバーする最短24アト秒分光が可能になる。