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人間を紫外線から守るオゾン層はフロン規制の効果で、極地上空にできたオゾンホールと呼ばれる欠乏箇所が消えたと考えられていた。しかしオゾン層の修復は緯度に強く依存しており、低緯度地域の上空のオゾン層では修復されていないことが欧州の研究チームによる最新の研究で明らかになった(Ball et al., Atmos. Chem. and Phys. 18, 1379, 2018)。
地球上空のオゾン濃度はフロンを始め分解反応を起こす化学物質(冷媒)の濃度上昇とともに、1970年代から減少しだした。国際的な規制によってオゾン濃度は徐々に回復して極地の上空では完全に修復されたとされていたが、実は人口の集中する低緯度地域の上空(10-50km)では、そうではないことが明らかになった。
オゾン層はほとんどが成層圏の低高度領域に存在して太陽光の紫外線を吸収してくれる。1987年にフロン規制のモントリオール議定書が採択され、世界各国で規制が施行された結果、最近になって極地および高緯度地域上空のオゾンホールは完全に修復されたことが確認されている。
しかし研究によると60度以上の低緯度地域上空のオゾン濃度は回復していないことがわかった。オゾン保護の修復されたのが極地上空に限られるとすれば、地球全体のオゾン濃度は減少に向かう傾向は(フロン規制では)止められないことを意味している。低緯度地域ではこのため紫外線の照射量が増えている。
Credit: ETH
低緯度地域上空のオゾン濃度減少の原因は特定されていないが、大気圏内の空気の流れの変動でオゾンが熱帯上空から極地へ運ばれる可能性がある。また塩素や臭素を含む超短寿命の化学物質が比較的低空のオゾンを破壊することも考えられる。これらの化学物質は寿命が短く大気圏に長時間存在し得ないので、成層圏に影響が少ないと考えられてきたが、今後はこれらの影響を考慮する必要がある。
研究チームは1985年以降、蓄積されてきた衛星データを解析することで原因を特定できるとしている。モントリオール議定書は極地のオゾンホール減少を食い止めたとして国際的な規制の有効性を示す例とされるが、現実には地球全体のオゾン濃度欠乏をなくすことはできなかった。環境保全の問題の難しさを改めて認識せざるを得ない。
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