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コロンビア大学の研究グループは再生可能エネルギーとして初めて湖や貯水池の水の自然蒸発を評価した結果、全米の消費電力の70%に相当する325GWの発電能力を持つことがわかった(Cavusoglu et al., Nature Comm. 8:617, 2017)。
また太陽光や風力発電が時刻と天候に強く依存するのに対して、自然蒸発発電は電力需要に答えることができることも明らかにされた。自然蒸発によって水資源はサイクルを繰り返して地球上と大気中を行き来している。研究グループはシャッターの開閉で空気中に出て行く水分を制御する「蒸発エンジン」と呼ぶ実験装置を製作した。
シャッターの開閉によって水分の制御が行われる。これに並行して水分を吸収して膨張する物質の動きが発電機を動かす、という原理である。この自然蒸発発電の特徴は天候や時刻に左右されないことで、電力需要に合わせてシャッターを開けるだけである(下図b、c)。
Credit: Nature Comm.
貯水槽のシャッターを開けて蒸発した水分が増えると緑で示した物質が膨潤で伸びる。この蓋を閉じて大気につながるシャッターを開けると、水分が大気中に放出されて湿度が下がり、緑の物質は収縮する。膨張と収縮を周期的に行えば一定の機械運動となり、発電機を回転させることができる(d、e)。
研究グループは自然蒸発の制御で風力や太陽光に匹敵する325GWを発電でき、同時に蒸発量の約半分を節約することができるとしている。これまで再生可能エネルギーに考慮されなかった自然蒸発を使うと、無駄な蒸発を抑えて灌漑に有効に使える一方で、時刻や天候に左右されない発電システムを構築することができる。
これまで蒸発熱を空調に利用することは広く行われてきた。しかし湖水や貯水池に蓄えられた水の蒸発で機械的な運動エネルギーを介した発電に応用するアイデアは初めてである。自然界の水バランスを変化させられないが、蒸発を制御するだけなので、いわば無駄に空気中に放出され雨で戻ってくる水分を減らしながら、発電にも利用できるのが特徴である。
再生可能エネルギーの利用はどれを取っても原子力や火力に比べればウサギとカメの競争で、地味にコツコツ積み上げれることが必要だが、自然蒸発もその例外ではない。