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近年のEVブームに同調するかのように、化石燃料が地球環境汚染を一手に引き受けているかのような風潮が目立つ。CO2排出規制に熱心な欧州各国が先導して内燃機関ボイコットや化石燃料販売禁止の動きは激しさを増している。化石燃料依存度の高い米国と中国では本格的な排出量規制が難しい現実に見切りをつけて、化石燃料の締め出しという強硬手段に訴えるかのようである。
しかしCO2排出量は火力発電所をはじめ化石燃料の燃焼技術に強く依存している。クリーンコールのような低排出量の利用技術もあるので、ひとくくりで化石燃料を論じることはできない。
オハイオ州立大学の研究チームは効率よく化石燃料とバイオマスを電気や工業的に有用な人工燃料(シンガス)に変換する化学ループの研究開発を行っている。CO2を使いシェールガスからメタノールと軽油に変換するこの手法は原料のシェールガスの代わりに石炭やバイオマスを用いることもできる(Kathe et al., Energy & Environmental Science, 6, 2017)。
さらに研究チームは高温高圧での酸化還元反応の酸素単体である金属粒子の長寿命化に成功し、石炭などの化石燃料を有用な原料に変換する工業プロセス(化学ループ)(注1)が現実的とした(Chung et al., Energy & Environmental Science, 11, 2017)。研究チームはこれらの要素技術を使いシンガスの製造コストを50%低減できる特許を取得している。
Credit: Viena University
(注1)通常の炭化水素燃焼過程を金属が空気中の酸素と反応して酸化金属MOとなる時の発熱を発電などの利用し、炭化水素燃料でMOを還元する2段階に置き換える際に、後者でCO2を回収することで排出ガスを出さないクリーン燃焼が可能になる。化学ループの原理は空気中の酸素で金属を酸化して、化石燃料あるいはバイオマス(炭化水素)の燃焼で金属粒子の還元を同時に行うもの。日本の東工大研究チームが提案したものであるが、金属粒子の還元効率が悪いとサイクリックな反応が続かない。高温高圧での安定性と酸化・還元の可逆性という相反する要求の技術的難易度が高い。
化学ループはCO2を回収しつつ発電やシンガス製造に有効に用いるため、法規制で無理な転換を強いなくとも緩やかにクリーンエネルギーへの転換を行うことができる。化学ループでのシンガス製造コストが半分になれば、化石燃料から水素や核融合などの次世代クリーンエネルギーへ移行する過程を急ぐ必要はなくなる。