Credit: ACS Nano Lett.
HDDにかわる次世代メモリの開発が進んでいるがこれまでの2次元原子層をメモリに使う試みは成功していない。テキサス大学オースチン校の研究チームは高メモリ密度を持つ単原子層メモリの開発に成功しメモリデバイスを「アトムリスタ」と命名した(Ge et al., Nano Lett. 18, 434, 2018)。
研究チームは注入電荷による抵抗変化をメモリに用いるメモリスタを改良したアトムリスタは3D化で高密度化できるのが特徴で、すでに微細化の限界に近ずいた不揮発メモリ(MOS)の記録密度限界を打ち破るとして期待されている。トランジスタとメモリ素子はこれまで基板上で別のデバイスとして実装されてきたがアトムリスタでは一個の素子にこれらの機能を集積する事で、配線を減らすとともに実装密度を上げることが可能になる。
アトムリスタはグラフェンシートを電極とした抵抗スイッチング機能を有するMoS2層の1.5nm厚のサンドイッチ構造デバイスとなる。実際にはスタッキングされて3Dチップを目指す。3Dアトムリスタによって高密度メモリ・論理回路が可能になれば、人間の脳が行う複雑な計算と記憶機能の連携が一つの基盤上で可能になり、記憶容量と計算能力の両立が不可欠の要素となる人口知能デバイスに向いている。
もともとメモリスタそのものは高密度メモリにはならないがアトムリスタの強みはスタッキングで3D化するので、高密度化が容易である。研究チームはまたアトムリスタ技術を使えば、スマホ等の携帯端末の部品数を極端に少なくすることができるため、コンパクトでバッテリー寿命の長い端末を製造することも可能となる。アトムリスタはRFで直接メモリを駆動できるため電力を消費しない。
スケーリング則の破綻で黄信号が灯ったシリコンチップ産業だが、アトムリスタによって復活することも期待される。下図左はアトムリスタ素子構造、右には電圧印加でオン状態となり逆電位でオフ状態となる様子が模式的に示してある。デバイス製造では原子層エピ成長が不可欠となるが、IIIVで確立した技術であり、遷移金属カルコゲナイドの安価なコストもてあって製品化への道はそう遠くないだろう。昔考えられたSTMによる単原子メモリより遥かに現実的なデバイスである。
Credit: ACS Nano Lett.